地域で選ばれる医療機関となるために看護管理者が知っておくべき政策動向と経営戦略・組織論とは

1512尾形先生

尾形 裕也さん(おがた・ひろや)
東京大学政策ビジョン研究センター特任教授
(九州大学名誉教授)
1952年兵庫県神戸市生まれ。東京大学工学部・経済学部卒業後、1978年厚生省入省。年金局、OECD事務局(パリ)、厚生省大臣官房・保健医療局・保険局・健康政策局課長補佐。1989〜2001年、在ジュネーブ日本政府代表部一等書記官、千葉市環境衛生局長、厚生省看護職員確保対策官、国家公務員共済組合連合会病院部長、国立社会保障・人口問題研究所社会保障応用分析研究部長を歴任。
2001〜2013年、九州大学大学院医学研究院教授。2013年より現職。

 

医療経営表紙入稿

地域包括ケアシステムの構築をめざす制度改革の中で、質の高い看護を提供し、地域で選ばれる医療機関となるためには、看護管理者がその経営に参画することが重要です。医療制度の概要と経営理論をわかりやすく解説した新刊『看護管理者のための医療経営学 第2版』著者・尾形裕也氏に、本書で解説している内容と看護管理者への期待などについてうかがいました。

 

 

 

 

――本書では、医療機関の経営に大きな影響をもたらす近年の制度改革等がわかりやすく解説されています。看護管理者にとって特に関心が高いのが病床機能報告制度ですが、自院の病床機能を選ぶ際、特に重要なポイントを教えてください。

 

注目される地域医療構想では、その前提としての病床機能報告制度が昨年から運用されています。今回の制度で一番重要なのは、“医療機関が自ら選択する”ということです。その前提になるのは、地域における医療・介護のニーズに見合った形で自院のポジショニングを選択することだと思います。まずは地域医療構想の中で、各地域の病床機能ごとの必要病床数が出てきますから、それと現状を突き合わせて、どこが不足しているのか、どこが過剰なのかを見極める。その上で自分の病院の強み・弱みと合わせて見て、どういう戦略をとるのかを考えるのです。

 

――病院によっては、すごく不安に思っているところもあるようなのですが……。

 

たしかに初めての試みです。ただ、あまり心配される必要はないと思います。全体として見たときに、医療・介護全体のニーズが小さくなっていくことはないからです。例えば、地域で急性期が過剰であれば回復期に転換していただくとか、そういうことは必要になるかもしれません。ほかの産業分野では、全体の市場が縮む中でどうするかという深刻な問題がありますが、医療・介護についてはそうではありません。適切なポジショニングをとれば十分やっていけます。

 

――本書では、競争戦略論(ポジショニング論)が説明された後に、急性期医療に対応したポジショニングを選択した病院のケーススタディも紹介されています。この病院の戦略が成功した要因は何だったのでしょうか。

 

1つのポイントは、トップ(病院長)の高い志に基づいた強いリーダーシップでした。医療機関のようにさまざまな資格を持つ専門職で構成されている組織では、普通の組織以上にリーダーシップが重要です。

 

本書で紹介した事例は、熊本の医療圏にあり、大変な激戦区でもありました。そういう状況下で自分の病院がどの機能を担うのか、担えるのかということをデータを基に分析し、徹底的に考え、ミッション、ビジョン、ストラテジーを明確にした点も重要なポイントです。これからほかの地域でさまざまなポジショニングを考えるに当たって参考になる事例です。

 

――先生は、冒頭で「ロジカルシンキング」の大切さを説いておられますが、物事を理論的に詰めて考え、処理する姿勢を身につけるためには、日々どのような意識づけ(トレーニング)を行えばよいでしょうか。

 

一言で言うと、いわゆる“常識”を疑うところから始まるのではないかと思います。例えば、医療政策の分野では、在院日数を短くすると医療費を削減することができるかのような議論がなされてきました。これをロジカルシンキングでよく考えてみると、果たしてそう言えるかどうか。例えば看護配置を変えずに、在院日数だけ短くすると、おそらく医療の質が落ちます。医療の質を下げない、むしろ改善していくことを考えると、在院日数を短くすれば医療費が削減されるということはないはずなのです。常識とされていることに確実なエビデンスがあるか、論理的に問い直すことが大事だと思います。

 

例えば、管理者の方には必ず新聞を読んでいただきたいのですが、医療記事について、この部分は正しい、でもこの部分は違うのではないか、と気をつけて読んでいくこともロジカルシンキングにつながります。

 

――最後に看護管理者の皆さんへ期待されることについて、メッセージをお願いいたします。

 

自治体病院の再建等で知られる武弘道先生は、医師であり、病院事業管理者でもありました。武先生がよくおっしゃっていたのは、「病院経営をよくするためには、とにかく看護職の人に副院長になってもらう、大きな病院はみなそうするべきだ」ということでした。私も同感です。病院で最大の専門職集団である看護職のモチベーションが低いところは経営もうまくいかないはずですし、組織を動かす看護管理者の責任や影響力は大きいと考えます。看護がよくならないと、医療はよくならないのです。看護職の方々には頑張っていただきたいです。

 

-「看護」2015年12月号「SPECIAL INTERVIEW」より –

 

 

看護管理者のための
医療経営学 第2版
地域で選ばれる医療機関を目指して