●監修 福井 トシ子
国際医療福祉大学大学院副大学院長/教授
●企画協力
鳥海 和輝
『Gem Med』編集主幹
小野田 舞
一般社団法人看護系学会等社会保険連合 事務局長
診療報酬等に関連する用語の理解や管理指標の持つ意味、病院機能ごとの経営の考え方について解説するとともに、事例を通じて、看護管理者が病院経営に貢献するためのヒントを探ります。
*vol.1〜6は【解説編】、vol.7以降は【実践編】となります。
vol.9 実践編③
損益分岐点を用いた経営提案
近藤 由理香
こんどう・ゆりか◉杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター師長。杏林大学保健学部看護学科卒業後、杏林大学医学部付属病院に勤務。現在、産科病棟で産科ケアの導入に携わっている。国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野 医療経営戦略コース修士課程修了。
新たな企画を実施するときに重要なことは、その事業(企画内容)が組織と社会にとってどれほど有益なものであるかを、事業主(病院長、理事長など)に伝えることです。これまで本連載で述べてきたように、病院は営利を目的とする企業ではないとは言え、有益性があり、収益の見込める事業を実施する必要があります。
ここでは、産科病棟で産後ケア(宿泊型)を新たに開設する事例から、損益分岐点について解説します。産後ケアは、こども家庭庁が提唱している「安心・安全で健やかな妊娠・出産、産後を支援する体制」の一事業として、2021年4月に施行された母子保健法に定められています(第17条の2)1)。産後ケア事業の実施主体は市町村ですが、受託先の不足が課題となっており2、3)、病院の空床利用も認められています4)。
損益分岐点の計算方法
損益分岐点の分析については、本連載の第3回(2024年6月号)で解説しましたが、あらためて復習しましょう。
例えば、産後ケアの利用者数をX人とすると(その都度、利用料が発生するのであれば延べ人数もX人となります)、変動費と固定費の合計が利用人数X人の売上と一致するところが損益分岐点となります。つまり、利用者数または利用回数の数を求めることで売上金額が計算でき、どこからプラスの収益が発生する(損益分岐点を上回る)かを予測できます。詳細な変動費や固定費の算出は難しいため、あくまでも概算でしかありませんが、稼働率や収益予測を数字で示すことで、企画の承認が得られる可能性は高まるでしょう。
→続きは本誌で(看護2024年12月号)