SPECIAL INTERVIEW『認知症plus意思表明支援 日常生活のここちよさを引き出す対話事例』 ケアのプロセスとして、意思表明に向けた対話を重ねましょう

長江 弘子さん(右)

(ながえ・ひろこ)

東京女子医科大学看護学部看護学研究科
老年看護学・エンドオブライフケア学 教授

 

 原沢のぞみさん(左)

(はらさわ・のぞみ)

東京女子医科大学看護学部看護学研究科
老年看護学・エンドオブライフケア学 准教授

 

 

認知症の人への意思表明支援は、日常生活のケア場面での意思表明に向けた細やかな対話の積み重ねから始まります。新刊『認知症plus意思表明支援』の監修者・長江弘子さん、編集者のお1人・原沢のぞみさんに、本書の読みどころや編集・執筆に込めた思いをうかがいました。

 

—認知症シリーズ13冊目となる本書は、「意思表明支援」がテーマですね。

 

長江 「意思表明支援」は、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(厚生労働省・2018年公表)において、意思決定支援のプロセス(意思形成支援+意思表明支援+意思実現支援)の1つの段階として明示されました。つまり、意思表明支援は、本人の意思の形成と実現に向けた重要な段階で、認知症の人とのコミュニケーションを十分とることの必要性を意味しています。

私たちは、認知症の人とのコミュニケーションを「対話」と置き換えることで、新たなケアの視点で捉え直し、ケア提供者の実践としての思考と行為を言語化し可視化することを試みました。

 

—本書で伝えたいこと、ケアに生かしてほしいことは何でしょうか。

 

長江 まず、“意思表明支援はケアのプロセスであり、対話の積み重ねである”ということを感じ取っていただきたいです。そして、認知症の人を理解しようとする姿勢や態度、「どうして?」「なぜ?」という認知症の人の行動や言動の背景に関心を持つことが、対話を進める原動力になるということを、事例をとおして理解していただきたいと思います。

また、対話場面がリアルに伝わるように、ケア提供者の実践を丁寧に書き起こしています。ですので、対話の背景にあるケア提供者の試行錯誤や意図、それにより対話が進んでいくことが理解でき、あたかも自分がそこにいるようにも感じるかもしれません。そのことは、「自分だったらこう考える」「自分だったらこうする」など、支援者としての日ごろの実践を振り返るきっかけになると思います。こうした対話の実践例は、老年看護学の教育や学生実習にも役立つのではないかと感じています。

看護実践の可視化というのは大げさですが、対話のやり取りの中に看護実践の本質はあると、本書の編集に取り組む中で感じました。

 

—「対話」という点で、編集で工夫されたことは?

 

長江 まず、対話場面がリアルに伝わるということでは、LINE画面のイメージを基に、対話場面のレイアウトを検討しました。対話場面での表情や様子、さらに背景にあるケア提供者の考えたことや判断なども記載し、1つひとつのやり取りがリアルに伝わるように工夫しました。もう1点は、「対話の手がかり」の提示です。認知症の人と対話を進めていく上での「その対話の重要な視点」「その対話の意味すること」「対話にある支援者のスキル」など、編集する中で概念化することを試みました。

 

—「対話の手がかり」は、編集の過程で生まれてきたのですね。

 

長江 編集者・執筆者にとって対話の実践の中にある視点やスキルなどを言語化することは、「対話」とは何かに向き合うことでもありました。日常的な実践の中でケア提供者としての実践家が持っている埋もれた理論的な根拠があると思い、編集においては実践家の意図をくみ取ることに注力しました。

その編集成果を、原沢さんが「第2章 3認知症の人と家族との対話の手がかり」として執筆してくださいました。第3章の「日常生活のケアにおける対話」14事例と「病状の変化・進行に合わせた本人や家族との対話」9事例の「対話の手がかり」をカテゴリー化し、その特徴・関係を図式化してくださいました。ここは本書の肝だと思います。

 

—さまざまな工夫・試みが込められた対話事例ですが、「日常生活のケアにおける対話」で注目してほしいところはどこでしょうか?

 

原沢 食事・排泄・移乗など日常生活のケア7場面を取り上げました。どのケア提供者も日々のケアが心地よいケアとなるように、1つひとつの表情や動作、声の調子などからご本人の意図を感じ取り、またその意図がご本人の思いに沿っているかを確実にするため、丁寧な対話を繰り返しています。その丁寧な繰り返しが、心地よい対話へとつながっています。その部分に注目して読んでいただきたいです。

 

—「病状の変化・進行に合わせた本人や家族との対話」で注目してほしいところは、どこでしょうか?

 

原沢 ご本人が言葉として表出することが難しい状況であっても、身体的・精神的・社会的に持てる力をしっかりと見極めて、ご家族や地域を含めた支援者とともにチームとして意思形成、意思表明、意思実現へと進めていく事例が描かれています。

認知症を疑い始める時期〜不安定な症状が見られる時期〜意思疎通が困難になる時期へと、時期別の特徴を踏まえた「対話の手がかり」は、日々の実践のヒントになると思いますので、ぜひ注目していただきたいと思います。

 

—最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

 

長江・原沢 意思表明支援に向けた対話を基に、認知症看護実践の1つの要素を形にできたように感じています。日常的に認知症の人とどう向き合っているかを振り返り、「対話」を理念や考え方だけではなく、よりよい実践に生かしていただけることを願っております。読者の皆さまがどのように感じられたか、ご感想をお寄せいただければと思います。

そして、認知症の人と向き合っている多くのケア提供者の方々のお役に立てれば、幸いです。

 

【本書を動画で紹介!】

 

 

 

新刊情報

認知症plus意思表明支援
日常生活のここちよさを引き出す対話事例

 

監修 長江弘子
編集 原沢のぞみ・高紋子・岩﨑孝子
●B5判/208ページ
●定価3190円
(本体2900円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2342-0
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 

 

 

 

 

 

 

[主な内容]

第1章  認知症の人への意思表明 支援の目指すところ
第2章  心地よさを引き出すための 対話に求められること
第3章  認知症の人と家族の意思 表明を支える対話
1 日常生活のケアにおける対話 (全14事例)
食事/清容・清潔/入浴/排泄/着衣・脱衣/移乗/睡眠
2 症状の変化・進行にあわせた本人や家族との
対話(全9事例)
認知症を疑いはじめる時期/不安定な症状がみられる時期/意思疎通が困難になる時期

 

看護2021年11月号より

 

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