SPECIAL INTERVIEW 〈対談〉外来看護-課題と展望

数間 恵子さん(写真右)
元東京大学大学院医学系研究科 教授 聖路加看護大学卒、保健学博士(東京大学大学院)。1992年より10年間、旧社会保険船橋中央病院で保健師として外来での看護相談等に従事。1999年より東京大学大学院医学系研究科教授。任期満了後も外来看護にかかわる講演や執筆活動を続けている。
島田 恵さん(写真左)
首都大学東京大学院人間健康科学研究科 准教授
熊本大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒、看護学博士(東京医科歯科大学大学院)。1999年より12年間、HIV/AIDSコーディネーターナースとして国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センターに勤務。2011年より現職。

『The 外来看護 時代を超えて求められる患者支援』(以下、本書)では、外来での看護が初めて診療報酬上で評価されてからの25年間を振り返るとともに、外来で活用したい知識や資料をふんだんに盛り込んでいます。それでも本書で深く取り上げきれなかったテーマもあり、そのいくつかについて、ともに外来看護の進展をみつめてきた2人が熱く語り合います。

 

 

 

 

 

数間 本書は、資料を随所に用いたことによって、「読み物」と「資料」という一般的には相容れない性格が両立するものになったと思います。島田先生にも説得力のある資料を作成いただきました。
島田 「外来看護」をキーワードに1990年までさかのぼって学会発表や文献の動向を調べました。そこからわかったことは本書に詳しく述べています。

 

■病棟の陰に隠れてしまった外来の看護
島田 今回の対談に当たって、さらにさかのぼって文献を調べて、見つけたことがあります。本書でも、外来の看護職員の配置基準(30:1)が、1948年の医療法制定時から「70年間」変わっていないことに触れています。しかし、「外来の看護職員の配置基準がずっと変わっていない」ということは、「70年間」の数字の部分が変わっただけで、以前から脈々と言い続けられていました。今、私たちは「70年間」といっていますが問題の指摘はずっと前からあったのです。

 

数間 外来の看護職員の配置基準については、法律上のことで病棟のように診療報酬上の評価があるわけではありません。これからもっと議論する必要があると思います。

 

島田 指摘し続けていながらも、変えてこられなかった理由の1つに、病棟の陰に外来が隠れてしまったという現実があるかと思います。

 

数間 1992年に在宅療養指導料が新設されて、やっと30:1とは別に外来の看護を考えることができるようになりました。在宅療養指導料のことは、当時の雑誌などでも多く取り上げられましたし、私が診療報酬に関心を持ち始めたのもそのときでした。しかし、その後、2006年に病棟の看護師配置(7:1)に対して診療報酬上の評価が大きく変わり、外来の看護師までが病棟に引き上げられて、病院の収入を大きくしようという動きになりました。そういう意味で、在宅療養指導料でやっと表に出た外来の看護が、また隠れてしまったのです。

 

今後は、急性期の病床数をさらに減らしていく方向にあるので、病棟の人材を医療全体にどう配分していくのかが課題になるかと思います。

 

■地域包括ケアシステムの理念と外来の看護
数間 外来の看護職員の配置基準が変わらない一方で、外来を取り巻く環境は時代とともに変わっています。1992年の医療法の第2次改正で初めて医療提供の理念が示され、第6次改正では地域包括ケアシステムの考え方が「理念」として示されました。外来の看護の今後を考えると、地域包括ケアシステムとどのように関連づけていくか、国民健康保険などとの連携、地域包括支援センターとの関係づくりが課題になると思います。具体例として、国を挙げて推進している「糖尿病腎症重症化予防」があります。外来では糖尿病透析予防指導管理料の中で療養指導を行っていますが、そこから漏れている人を健診データなどから抽出し、地域の国保や健保の保健師とタッグを組んで受診勧奨や保健指導を行い、糖尿病腎症の進行を遅らせようという取り組みです。これは保険者と地域の医療機関の外来の連携であり、地域包括ケアシステムの理念に合致することです。

 

外来と在宅の看護をどのように位置づけるかについては、いろいろな考え方があると思いますが、在宅の視点からは、外来を必ず関係があるものとして位置づけておかなければなりません。また、外来の視点からも、通院されている患者さんの高齢化や複雑化する医療システムを鑑みながら、保険組合や在宅看護が機能するよう考えなければなりません。どちらが上位ということではなく、お互いに連携すべき存在なのだと思います。

 

島田 私がコーディネーターナースとして、HIVの患者さんに外来で対応していたときは、今後の病状の進行に伴って患者さんの生活がどうなるかを予測しながら、必要に応じて外来から訪問看護に依頼を行うこともありました。HIVの方を受け持つのは初めてだという訪問看護ステーションも多かったので、外来の看護師の立場で訪問看護師と一緒に患者さんのお宅に伺い、訪問看護師を患者さんに紹介してつなげることもしました。したがって、地域包括ケアシステムの中の外来看護という考え方は、私にとっては新しいものではありません。

 

外来にとどまらず、患者さんが必要なときには院外にも出かけて仕事をするのが私にとっての外来看護でした。外来を受診していない間のことこそが大切で、看護師1人ひとりが、個々の患者さんの長い経過をイメージしながら協働していくことが必要だと思います。

 

■外来の看護を変えていくためには……
数間 外来では、島田先生がおっしゃったように、患者さんの長い経過をイメージし、現在はどういう状況で、次の受診までにどうしていくかを、患者さんが語る中から看護師がピックアップし、援助につなげていくことが求められます。患者さんが語れるように積極的に声をかけ、さらに、語ってもらうために患者さんの話を聴くことが大切です。

 

島田 あいさつなどの声かけを続けることによって、関係性が築かれ、患者さんのニーズが拾えるようになることが実感できれば、外来でも積極的に看護が実践できていくのではないかと思います。長い時間をかけて話さなくても、患者さんのほうから声をかけてくれるようになればいいんです。

 

外来での看護を新しく変えていくというより、本来あるべき姿になっていくということだと思います。

 

『The 外来看護

時代を超えて求められる患者支援』

 

数間恵子 編著

●A5判 224ページ

●定価(本体2000円+税)

ISBN 978-4-8180-2052-8

発行 日本看護協会出版会

(TEL:0436-23-3271)

 

-「看護」2017年10月号「SPECIAL INTERVIEW」より –