SPECIAL INTERVIEW 相談支援のエキスパートとして考える看護師による がん体験者の就労支援

 

小迫冨美恵さん(写真右) (こさこ ふみえ)
横浜市立市民病院 看護部
がんセンター担当副部長 がん専門相談員/
がん看護専門看護師
清水奈緒美さん(写真左) (しみず なおみ)
神奈川県立がんセンター
緩和ケア・患者支援部 患者支援センター
相談支援担当科長 がん専門相談員/
がん看護専門看護師

がん患者の3人に1人は働く世代であり、30万人以上が、仕事をもちながら治療を続けているといわれます。がん体験者の治療と仕事の両立を支えようと、医療現場でも就労支援が始まっています。新刊『がん体験者との対話から始まる就労支援』では、看護師が就労支援を行う上で必要な視点を解説。編者の小迫冨美恵さん、清水奈緒美さんに、本書についてうかがいました。

 

 

 

 

■医療現場で就労支援が始まった経緯

 

小迫 2010年よりがん相談支援センターでがん相談に携わるなかで、看護師として就労を含めた社会生活をどう支援できるのかを考えてきました。

 

第2期がん対策推進基本計画を踏まえ、2014年の厚生労働省通知において“就労支援”ががん相談支援センターの業務として明記されました。これは病院で就労支援を考える大きな契機となり、私の問題意識とも合致するものでした。

 

その後、国でがん患者の就労対策が進められ、2016年2月には厚労省より「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表されました。こうした国の動きや、がん罹患者の退職が多数にのぼる現状を受け、がん医療の現場でも、就労が大きなテーマとなった経緯があります。

 

最近になって、がん相談支援センターの就労支援に関する研修が始まりましたが、看護師が主体となって就労支援にかかわることを、院内ではまだ実感できていないのが現状です。

 

がん患者さんは看護師との対話のなかで、仕事についてとても深く語っています。しかし、それは看護師が引き受ける問題とは認識されていません。私はがん相談員として、患者さんが深く語ることにはそれなりの意味があり、「就労支援は私たち医療者が取り扱う範囲ではない」と決めつけたり、見過ごしてはいけないと思ってきました。

 

清水 実際、がん相談支援センターに仕事の相談として来られる方は多くはありません。ただ、小迫さんが言われるように、患者さんの話には就労の問題が見え隠れしています。それに気づけるかどうかが、支援の大きなポイントになっています。

 

看護師は医療職として治療の経過や副作用の知識を持ち、それが患者さんの社会生活にどう影響するのか見通しを立てることができます。この強みを生かして、患者さんの悩みと看護師の知識を共有することが、就労支援につながると思います。

 

■看護師に求められる就労支援とは

 

小迫 仕事に関する悩みはトータルペインの「社会的苦痛」に深くかかわっており、そこを支援することが看護師の役割だと思います。患者さんを全人的にアセスメントしながら、社会的な問題について看護師だからこそ見えること、話し合えることを考える。これは普段どの看護師でも行っていることであり、看護の基本に通じるものです。

 

清水 また、看護師は各職種へ橋渡しができる職種です。経済的な問題は医療ソーシャルワーカーへとつなぎ、治療の方向性で悩みを抱えているのであれば、医師へと橋渡しができます。そうした他職種との連携も期待されていると思います。

 

患者さんが仕事の調整に困らないよう、経過に影響しない範囲で検査や治療の日程を考えることも重要な就労支援です。こうした生活上のことから治療の方針まで、患者さんはさまざまな大きさの問題に直面しますが、どのような場にも看護師はいて、タイムリーにかかわることができます。「外来、病棟、すべてのケアのなかに就労支援のニーズがある」というのが、本書のテーマです。

 

■本書の読みどころ

 

小迫 本書は神奈川県がん診療連携協議会相談支援部会 就労支援ワーキンググループ(WG)にご協力いただいたのが大きな特徴です。WGのメンバーが試行錯誤を繰り返してきた経験をもとに、“これぞ就労支援”といえる要素を取り入れて事例としたのが7章「事例からみる がん体験者の就労支援」です。個人が特定されないよう改変した事例ですが、就労支援のあり方として、ぜひ読者の皆さんと共有したいと思います。

 

清水 看護師による就労支援を、さまざまな視点から網羅した構成になっています。1章「がん体験者の就労支援の現状」など、国の取り組みや就労支援に関する制度をまとめた内容は、社会資源を理解する上で参考になります。

 

また、トータルペインやがんサバイバーシップの側面から就労支援をとらえ、看護師としての役割を明らかにしています。5章「がんの局面ごとの支援のポイント」6章「小児がん経験者の就労支援」は、就労支援の具体的な方法を解説しており、実践に取り入れやすい内容だと思います。

 

■読者へのメッセージ

 

小迫 本書は「就労支援は看護師ができることなのだろうか」という疑問から出発しています。自分たちの実践をとおして「できる」ということを、皆さんにまずお伝えしたいと思います。

 

そして、看護師として再認識したいのが「患者さんは“患者”としてのみ生きている人ではない」ということです。その人独自の生活があり、病気に至るまでの人生があり、たまたま「がん」と診断されて治療に向かっている。目の前にいるのは“がん患者さん”であっても、その背景にある“その人の本当の生活”を看護師はこれまでも見てきたはずです。そのことを、“就労”というキーワードに触れながらもう一度考えたいと思っています。

 

清水 がん相談支援センターだけではなく、外来や病棟で働く看護師だからこそ、患者さんとかかわれる部分があると思います。就労支援にもその部分を生かしていただくきっかけになれば嬉しいです。看護師による就労支援は、これから実践知が積み重なっていく領域です。共に取り組む仲間として、本書を活用していただければ幸いです。

 

「がん体験者との対話から始まる就労支援
看護師とがん相談支援センターの事例から」 

 

小迫冨美恵・清水奈緒美 編/神奈川県がん診療連携協議会相談支援部会 就労支援ワーキンググループ 協力

 

●A5判 180ページ

●定価(本体2100円+税)

ISBN 978-4-8180-2034-4
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)