トシコとヒロミの往復書簡 第19回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

井部俊子さんから川越博美さんへの手紙

守備範囲の拡大

文:井部俊子

 

私たちの往復書簡も19回目になるのですね。そういえば連載初回の対談以来、一度もナマの川越さんにお会いしていないなと思いつつ、「刺激的で変化に富んだ今」を送っているあなたを想像しています。

 

75歳未満は准高齢者にしたらどうかと日本老年医学会が提唱していると、先日の新聞が報じていました。私は出産・子育てを経験していないので、今でも若者気分が抜けず、街を行く女子のファッションが気になり、自分ならあんな色づかいはしないわ、などとライバル意識(?)を燃やしたりします。そして、もうそんな年ではないことに気づき現実に戻るのです。世の中の高齢者は、何の抵抗もなく自分の老いを受け入れていくのでしょうか。私はまだ“否認”のステージに固着しています。

 

ところで前号では、最近、訪問診療や訪問看護のサービス機関等を変えたいという相談が「とても多く」きていて考えさせられるということでした。つまり、利用者は病院の退院調整看護師や地域包括支援センターからすすめられたお仕着せのサービス機関等では納得がいかないということでしょうか。在宅ケアを選択する住民は、それだけサービスの質を意識していて、よいサービスを求めて“行動”するようになってきたと考えられるのでしょうか

 

介護保険制度の開始時点の、ケアマネジメントは本人や家族がするという精神が継承されず、市町村等の担当窓口はその道を閉ざしているということですが、確かに「制度や事務手続きが複雑」であるため専門家にしかわからないという混迷の世界にあることも、容易に想像できます。

 

あなたが聖路加にいたころから始めていた「家で死ねるまちづくり」活動が、10年以上の歴史を重ねてきたそうですね。NPO法人として住民の皆さんとともに続けている活動が定着し、人々の価値観や文化を形づくっていくさまは見事です。地域包括ケアシステムは、こうした活動によって形成されていくものと思います。究極のプライマリーナースは当事者本人であると、私は思うのです。偽のプライマリーナースが不当な威力を発揮しないことを願っています。

 

ところで、『看護管理』2月号(27巻2号)は「病院と訪問看護」の特集でした。冒頭の記事で奥田清子さん(厚生労働省保険局医療課課長補佐)が平成28年度診療報酬改定で新設された在宅移行支援について解説しています。