ナースたちが退院支援の仕組みをつくり、うまくいっている病院の実践事例を1つ取り上げ、「意思決定支援」と「自律支援」を軸に病棟ナースと在宅ナースがそれぞれの実践を振り返ります。加えて管理者から仕組みづくりの経緯とその内容をうかがいます。
[監修]
宇都宮 宏子 (在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス)
[筆 者]
堀尾 素子(精神療養病棟看護師)
角間 広美(訪問看護ステーション レインボウはたしょう)
力石 泉(看護部長)
今月の病院
豊郷病院
事例紹介
Aさん(70代/女性)
既往歴:レビー小体型認知症
社交的で明るい性格。お嬢様として育ち、高校卒業後21歳で結婚。2児をもうけ、しつけに厳しい厳格な母親・専業主婦として過ごす。55歳で夫が他界した。
長男は40代独身で大学卒業後大手企業に就職し、現在他県に赴任中。50代の長女はてんかん、知的障害があり作業所に通所中。長女と二人暮らしをしていた。
Aさんは2006年より物忘れを自覚するようになり、2007年当院を受診し、改訂長谷川式簡易知能評価スケール17点、レビー小体型認知症と診断された。介護認定を受けるが、Aさんの拒否で利用できなかった。
2008年より長女への暴力行為や被害妄想・幻覚症状があり、精神科病院や当院の精神科病棟での入退院を繰り返していた。2010年3月当院の精神科病棟を退院し2日後、もともとふらつきのあったAさんは散歩中に転倒して左橈骨遠位端骨折、顔面挫創にてギプス固定などの処置を受け、当院精神科病棟に再入院となった。
長男や長女のことを考えると、在宅での生活には課題が多く先の見えない状態が続いたが、2010年9月以降、Aさんは家に帰りたいと希望するようになり、長男に外泊を依頼したところ、「退院するよりまし」と納得の上、毎週週末に外泊を重ねることとなった。2011年5月の連休に長期外泊をし、「私、家で生活できる」と自己評価もよく退院への渇望が強くなり、6月には他患者との口論をきっかけに外泊から帰院しない状況となった。長男も「母が近所に迷惑をかけないなら」と退院への条件を口にし、最後の外泊観察録に「本人の強い希望を考慮して様子をみます」と初めて記載。このタイミングで退院調整を具体的に進めた。(続く)