CC2013年5月号掲載【看取り付き添いボランティア 入門セミナーは実践的対話型】の紹介

【看取り付き添いボランティア 入門セミナーは実践的対話型】
ドイツのボランティアコーディネーター

――モニカ・ミュラー・ヘアマンさん

 

 

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写真1  ‌デスクで電話をとるモニカさん

 

 

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写真2

フランクフルトにある市民研究所のユニークな建物。

ビジネス街の中の、緑豊かな公園の一画にある

 

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)

90歳近い高齢者3人組の「別居通い介護」まっただ中。
訪問看護・介護、訪問診療の助けを得て、
本人意思を大事にしたい=振り回され右往左往です。
毎日新聞日曜版で、4週ごとに

コラム『老いとつきあう』楽しく書いています。

ご感想は mkimiko@mbf.nifty.com まで。

 

 

できれば自宅で最期まで過ごしたい……。こう願う人を支える「看取り付き添いボランティア」がドイツ・デンマーク・英国・オランダ・米国などで活動しています。日本でもこれから必要になりそうです。フランクフルトの看取り付き添いボランティアのコーディネーター、モニカ・ミュラー・ヘアマンさんに聞きました。
(通訳は内田元子さん)

 

海外で在宅ケアを取材するとき、私はいつも“看取り付き添いボランティア”のことを聞いています。フランクフルトにある「ディアコニー・ソーシャルステーション」*1では、ダニエラ・ホッフラー・グライナー所長が「フランクフルトにもありますよ。友人なので紹介しましょう」と、すぐ電話をかけてくれました。
こうしてお話を聞いたのが、モニカ・ミュラー・ヘアマンさん(写真1)です。看取り付き添いボランティアは、伝統ある市民団体“市民研究所”(写真2)*2が行っています。ここには2人のコーディネーターがいて、ボランティアの育成・継続研修から利用者とのマッチングやトラブル対処まで、さばいています。

 

広がる看取り付き添いボランティア
どんな人が、どんな研修で?

 

ドイツの看取り付き添いボランティアは、約100市で行われています。フランクフルトのあるヘッセン州政府はこの活動を重視し、コーディネーターの経費やボランティアの損害賠償・責任賠償保険などの経費を援助しているのです(医療保険財政から支出)。
さて、看取り付き添いボランティアとはどんな人が、どういう訓練をしているのでしょう?
●実践的に対話型で鍛える
看取り付き添いボランティアになるには、ホスピススタッフ入門セミナーの受講と、ホスピスの見学や実習が必須です。入門セミナーは約50時間、見学・実習20〜40時間、100%の出席が条件で、1年に2回開かれます。
・希望者にはまず面接
「自分自身が親しい人を看取った経験を、ほかの方に役立てたい」という希望者がやってくることが多く、まずは面接で適性を見ます。
大事な人が亡くなって悲嘆の状態ではないか? 心身は健康? 特に精神的な面での病気、うつ的な傾向は? 信仰について、自分の宗教への改宗を勧める意図がないか?――これらに該当する人はすべて、このボランティアには向きません。
また「自分の看取りはうまくいかなかった。だから私のような看取りにならないように、手助けしたい」と話す、自分の看取り経験を引きずって気持ちが出過ぎる人も不向きです。
・入門セミナー+見学+実習
厳しい面接を通った人は、入門セミナーへ。金・土・日の週末3日間のセミナーを2回受講した後、毎週火曜日の夜に7回。合計で約50時間です(受講料150ユーロ/約1万8000円)。
講義には、必ずグループディスカッションやエキスパートとの対話がセットされ、自分自身への問いかけも含めて実践的な学習が進みます。
研修内容は、死や喪に服した体験をどのように昇華したか、看取り付き添いボランティアの可能性と限界、自分も死を逃れることはできないという現実、がんや認知症や疼痛緩和についてなど。コミュニケーションでは、利用者や家族との対話の基礎、言語外コミュニケーションや、ホスピスケアにおけるユーモア、死亡幇助(安楽死)と看取り付き添いの違いや関係――デリケートで難しいテーマを、真正面から取り上げます。
見学は、ホスピス・ケアホーム・在宅ケアで行い、さらに20〜40時間のホスピスと在宅ケア実習が待っています。
●狭き門をくぐりぬけた人だけ
入門セミナーの希望者は年に40〜50人。そのうち面接で14〜15人になり、セミナー修了までいくのは7人くらいです。そのうち半分はホスピススタッフとして仕事に就くので、ボランティアになるのは3〜4人くらいだけ。「入門セミナーを修了することが名誉」というのもうなずけます。
セミナーは奥が深く、実際に役立つ内容ばかりです。これだけ身につければ自信を持って看取り付き添いができるだろう、と思いました。

 →続きは本誌で

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 *1‌ 本誌2012年1月号42ページの「コミュニティケア探訪」参照。ソーシャルステーションは、ケアマネジメントと訪問看護と訪問介護の機能を併せ持つ。在宅ケアの要。

 

 *2‌ フランクフルト市民研究所:「恵まれない人々のために、市民として責任を負う」ことをめざし、ヴィルヘルム・メアトンが市民による市民のための“民間社会福祉センター”を1899年に創立。100年にわたり、人々に必要とされる活動に取り組んできた。 今は「市民研究所」と名称を変更し、高齢者ケアを中心とする25のプロジェクトを、20人弱の専任職員と350人以上のボランティアで展開する。その1つが看取り付き添いボランティアで、州政府も財政援助をしている。

 

→コミュニティケア2013年5月号