Land Eternal-永遠の地と呼ばれる国から

文と写真:山中 郁

 

バヌアツ共和国・エピ島のラマン・ベイにて

 

東日本大震災をきっかけに10年以上住んでいた英国から日本に帰国し、早くも1年が経とうとしています。帰国直後の9月から今年の3月まで岩手県に住み、現地で震災復興事業に関わってきましたが、今年の4月から特定非営利活動法人(NPO法人)HANDSのプログラム・オフィサーに採用され、現在出張で太洋州のバヌアツ共和国に来ています。

 

英国の医療制度や地域保健チームとの連携を学ぶ中で、最新設備を誇る病院を世界中に点在させるよりも、初めから人々がそんな施設を必要としない状態をつくり出すことに力を注ぐ方がより望ましいのではないか……? 発展途上国では特にそんな活動が必要なのでは……? という考えから、社会学を勉強したり、南アフリカの孤児院でボランティアを行ったりすることで自分に足りないことを学んできました。

 

震災をきっかけに多くのことを考え、結果今まさにその時やりたいと思っていた仕事のど真ん中にいることになるとは、1年前は想像もしていなかったです。

 

私が所属するNPO法人HANDSは、「世界の人々が自らの力で健康に生きるために」と言う理念の下、現地の人々が主役となって行う保健の仕組みづくりと人材育成を支援する、保健医療の国際協力団体です。2000年に設立されたまだ若い組織です。設立者でもある代表理事の中村安秀医師は、日本人の医師や看護師が医薬品を持って途上国の農村で治療するのではなく、どんな国にも医師や看護師がいるので、彼らが自国の人びとの健康を守る主役になれるような活動をしたいと考え、HANDSを設立したそうです。

 

4月にHANDSに入職してから、陸前高田市での震災復興事業とケニア事業の国内業務に関わり、6月からはケニアに代わって大洋州地域(フィジー、トンガ、バヌアツ)の地域保健看護師を対象とした、現場のニーズに基づく現任研修(Need-Based In-Service Training:NB-IST)強化をテーマとしたプロジェクトに携わることになりました。この活動は、独立行政法人国際協力機構(JICA)のプロジェクトで、開発コンサルタント会社と共同で実施しています。

 

私が現在出張中のバヌアツ共和国を初め、広大な海に浮かぶ大洋州の島国では医師不足が進んでおり、特に地方の住民の健康を守るのに、看護師は重要な役目を担っています。しかし彼らは看護学校卒業後、知識や技術を高める機会がほとんどなく、それは辺境の離島勤務ともなればなおさらで、保健医療サービスの質の低下が懸念されていました。このプロジェクトは現職の地域看護師を中心に、能力向上を目的とした現場ニーズに基づく研修制度をつくり、彼らに対し指導や支援を行える体制を整えていくというものです。

 

このプロジェクトは次の5つの大きな活動、「情報共有」「インパクト調査」「NB-ISTのための体制づくり」「NB-ISTとスーパービジョン&コーチング(S&C)」「NB-ISTにかかるモニタリング&評価(M&E)」から構成されており、私が関わっているのはこのうちのS&Cになります。

 

バヌアツは83の島々から成る総面積が長野県ほどの土地に、人口約24万人が住んでいます。113の現地語がある多様性のある国です。70年強の英仏共同統治から独立してまだ32年。現地語と英語や他の外来語からできたビスラマ語と言う共通語を持ちながらも、基礎教育機関は未だ英語と仏語に分かれており、看護学校はすべて英語で授業が行われます(そのため、基礎教育を仏語で受けた学生は、初めの数か月かなり苦労するそうです)。

 

空から見た首都ポート・ビラのあるエファテ島

国中から野菜や果物売りが集うポート・ビラの24時間マーケット

バヌアツの主食の一つ、キャッサバ芋(左)、ヤム芋と牛肉(右)

 

バヌアツでは先月、シニア看護師たちを対象としたスーパーバイザー(SV)となるためのS&C研修が行われました。今回私は6州中首都ポートビラのあるシェファ州のヘルスオフィサーとともに、先週1週間ほど離島に行って、実際にこの研修を受けたSVが、管轄の保健施設を訪問するのに同行してきました。

 

発展途上国での生活経験も仕事の経験もない自分に何ができるのか探っていましたが、実際にバヌアツに来てみて初めて、日本以外の場所(それが先進国であっても)で看護師として働いた経験と、10年以上英語環境で看護師をしていたことが、自分を助けてくれているのが解りました。

 

ポートビラにあるバヌアツ唯一の看護学校

バヌアツの看護学校の生徒たちは男性が多い

バヌアツ看護学校の大洋州体型人体モデル

 

さらに、バヌアツを初め、今回関わっている大洋州国の看護システムモデルは、地理的に近く多くのサポートを受けているオーストラリアやニュージーランドのものです。それが英国のものと類似しているため、ある意味私はこれまで、このプロジェクトが目指している形の中で働いてきたと言えるのです。

 

目指している方向性がはっきり見えること、そして、開発した各ツールは日本で使うものとは違うのですが、英国で働いていた自分にはとても馴染みがあるものであることが、自分の強みだと思いました。
このプロジェクトは2014年まで継続されるので、今後もさらに勉強を重ね、自分の経験してきたことを生かし、プロジェクトのプラスになるようになれればと思っています。

 

エマエ島・バイマウリ・ヘルスセンターの産前産後クリニック

バイマウリ・ヘルスセンター長でもある、看護師のドナルド

エピ島・ゾーン指導者のアンディ(右端)、ポート・クイミ保健施設看護師ジャネット(中央)、マラリア技師レベッカ(左端)と日本人スタッフ(右から2番目が筆者)

 

 


やまなか・かおる

神奈川県出身。国内の病院(小児科)に勤務後、2000年に渡英。現地病院の小児科及び小児病院などに勤務。震災を機に帰国し岩手県で震災復興事業に携わった後、今年の4月からNPO法人HANDSのプログラム・オフィサーとして活躍中。


 

コラム「海外でくらす、はたらく。」(INR 158号)

“異邦人”看護師7人の日々を、誌面とWebで紹介