折々のはなし㉓

教育現場の立場から角田直枝さん、在宅現場の立場から大槻恭子さん、福祉現場の立場から鳥海房枝さんに、日々考えていること・気になっていること・感じていることなどを述べていただく私的エッセイ。

 

 

大槻 恭子

おおつき きょうこ

一般社団法人ソーシャルデザインリガレッセ 代表理事

 

京都府南丹市出身。子どもの療養をきっかけに兵庫県但馬に移住し、築150年の古民家を購入。現在、その古民家を再生し看護小規模多機能型居宅介護事業所や訪問看護ステーションを運営。

 


 

「いのちのスープ」

 

1枚の写真

 

忘れられない1枚の写真があります。

 

それは、もう20年も前、息子の1歳のお誕生日の写真です。

 

息子は生まれてすぐに全身性の重度アトピーのような状態となり、ミルクはもちろん、母乳でさえアレルギー反応が出てしまいました。検査の結果では、食品そのものに大きな反応は見られず、化学物質などに反応しているのではないか、とのことでした。当時の私は、自分自身、そして息子にとって安心して食べられるものを見つけようと試行錯誤の日々でした。

 

そのような中でも、これは大丈夫! と言える、息子と私の貴重な栄養源がありました。それは、母お手製みそを使い、地元の新鮮な野菜をたっぷりと入れたおみそ汁。おみそ汁は息子の体をすくすくと育ててくれました。

 

授乳中は母乳でカロリーが消費され、とにかくお腹が空きます。当時は、お腹が空けばご飯と具だくさんのおみそ汁をいっぱい食べる……それの繰り返しでしたが、安心して食べられるものがあるだけで有難いと思いながら、毎日を過ごしていました。このころはまだ、インターネットが今ほど普及していなかった時代。アトピーの子どもを持つお母さんたちとつながる術がなく、心細い日々でした。この苦しさはきっと、自分たちだけではないと思いつつも、寝ても覚めても、息子の肌をツルツルの赤ちゃんの肌に戻したいという気持ちでいっぱいでした。

 

そろそろ1歳の誕生日を迎えようとしたころ。少し言葉を話せるようになった息子に「もうすぐお誕生日だね、何が食べたい?」と聞くと「おみちょちる!」と返ってきました。当たり前のことです。だってそれしか食べてないのですから。さすがにそのときは、まわりのアトピーや食物アレルギーなど持たない子どもたちの笑顔が思い浮かび、涙があふれてきました。
「そうだね、おみそ汁だよね。おいしいのつくろうね」と言って、いよいよ迎えた初めてのお誕生日。せめて、ろうそくだけでもと思って、大根を輪切りにしたものに可愛いろうそくを挿して、ふーっと消してもらいました。

 

大根にぶすりと挿さっている1本のお誕生日のろうそくとともに、満面の笑みで写る息子の写真を見ると、当時のさまざまな感情が思い出されて胸がぎゅっとなります。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2024年4月号)