認知症を持つ人の行動には生活歴や身体状態などが深くかかわっており、その人をみつめ、全人的理解のもとで看護ケアを実践していく必要があります。[認知症 plus]は、認知症を持つ人と向き合うことに苦手意識を持っていたり、不安を抱えているけれども、よりよいケアを提供したいと考えている看護・介護職の方にケアのヒントをみつけていただくための新シリーズです。
■大きく変わりつつある認知症を取り巻く状況
2004年12月、「痴呆」に替わり「認知症」という呼称になったのを契機に、認知症ケアは著しい勢いで進展してきました。医療の進歩により認知症の早期診断が可能となった結果、若年性認知症の本人が自ら政策提言し、認知症の人の立場に立ったケアが推進されるようになってきています。
そして、平成28(2016)年度診療報酬改定で「認知症ケア加算」が新設されたことにより、急性期病院での認知症ケアは大きく変わりました。特に、これまで医療事故を防ぐためという名目で多くの病院で慣習的に行われてきた身体拘束は、認知症の人の尊厳を重視する視点から見直され、減少・廃止の方向へと向かっています。
■認知症ケアにおける看護の役割の重要性
しかしながら、いまだに社会の中には「認知症の本人は自覚がないし、何もわからない」という意識が見られます。近年は、認知症を持つ人の数の増加や寿命の延伸などから、身体疾患を持つ認知症高齢者が急性期病院で治療を受けることが多くなってきていますが、病院では認知症があるだけで積極的な治療が受けられなかったり、認知症と診断されることで、自分で治療法を選択することができず、家族の意向が優先されてしまう場合もあります。
そのような状況は認知症の人にストレスや不安を抱かせ、それが大声で叫ぶ、歩き回る(いわゆる徘徊)、暴れるなどの行動・心理症状(BPSD)につながります。BPSDは看護師の適切な対応により軽減させることが可能であり、看護の役割がいっそう求められる時代になったといえるでしょう。
■新書籍シリーズ[認知症 plus]とは
このような認知症を取り巻く社会の状況と看護に期待される役割の変化を受けて、日本看護協会出版会では、新シリーズ書籍「認知症 plus」を刊行することになりました。本シリーズでは、認知症にかかわる幅広い領域で活躍される専門職や研究者の最新知見を、現場ですぐに生かせる知識やケア技術として紹介していきます。認知症の人への対応に苦手意識を持っていたり、さまざまな不安を抱えながらも、よりよいケアをめざして、病院・地域の高齢者施設・在宅の場などの現場で働く医療・看護・介護専門職の方に日々の実践で役立てていただけるようなテーマを選び、お届けします。
■第1弾『認知症plus転倒予防』のご紹介
認知症高齢者は日常生活において「転倒」「せん妄」「排泄障害」を起こしやすくなっています。しかしこれまで、これらを統合した看護の展開はあまりされてきませんでした。本書では「転倒」「せん妄」「排泄障害」は関連しあい、互いの症状を悪化させながら、要介護状態を進展させていることに注目し、パーソン・センタード・ケアを基盤にしてこれらを包括的に予防・アセスメント・ケアすることで、認知症高齢者の健康寿命・QOLを向上させることを目的としています。
さらに、ケアの実践を通して「認知症の人たちが最期まで人としていかに生きるべきであるか」と問いかけることで、看護師自身の生き方もみつめ直すきっかけにしていただければと思います。
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[認知症plus]シリーズでは、今後もさまざまな話題のテーマを取り上げる予定です。どうぞご期待ください。
鈴木みずえ 編
●B5判 248ページ
●定価(2800円+税)
ISBN 978-4-8180-2180-8
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)
→看護2019年6月号より