医療専門職、看護補助者、事務スタッフ…誰もが使える 『病院で働く みんなの医療安全』を刊行!

1511MRM

東京海上日動メディカルサービス株式会社
メディカルリスクマネジメント室の皆さん
同室は、病院やクリニックで発生する事故やインシデントを受け、コンサルティングや研修を通してサポートする組織。看護学、薬学、心理学などの視点で医療現場から寄せられるさまざまな相談に応じ、医療安全の取り組みを支援している。

『病院で働く みんなの医療安全』をご執筆いただいた、メディカルリスクマネジメント室(MRM室)の皆さんに、本書のおすすめポイントについて伺いました。

 

○ MRM室の皆さんにご執筆いただいた当社発行の本が、これで3冊

になりました。改めて、それぞれの特徴を伺います。

 

M:『リスクマネジャーのための医療安全実践ガイド』(2009年)は、専従・専任のリスクマネジャー(RM)が現場で問題を解決しようとするときに、実践のヒントになるものをと思って書きました。教科書ではなく、あくまで実践に即した内容で、まずRMをサポートできる本にしたいということで作りました。

 

リスクマネリスクマネジャーのための

医療安全実践ガイド

 

東京海上日動メディカルサービス株式会社

メディカルリスクマネジメント室 著

978-4-8180-1440-4

B5 184頁

定価 2,592 円(税込)

2009年8月発行

 

 

 

 

その後、医療安全の取り組みが進み、RMたちにとっては学習の機会や場が増えていきましたが、一方で、各部署で医療安全の委員に任命された人たちは、「自分がどんな役割をとるべきかわからない」「委員会で話されている用語の意味がわからない」などという状況にありました。病院としても、そこをうまくフォローできていないという声を聞き、医療安全の担当者の方たちが使う本が必要だということで『自信がつく!医療安全My Book』(2013年)を作成しました。

 

自信がつく医療安全MB自信がつく!医療安全My Book

 

東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室 著

978-4-8180-1786-3

A5 170頁

定価 1,836 円(税込)

2013年10月発行

 

 

 

 

 

 

そしていよいよ、3作目の『病院で働く みんなの医療安全』(2015年)が誕生します。この背景には、看護師などの医療専門職が業務に専念できるようにと、これまで幅広く任されていた業務を看護補助者やクラーク(事務スタッフ)と分担して、それぞれの専門性を発揮する時代になってきたことがあります。

 

みんなの医療安全病院で働く みんなの医療安全

 

東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室 著
978-4-8180-1918-8

A5 160頁

定価 1,836 円(税込)

2015年7月発行

 

 

 

 

 

 

看護補助者の業務というのは、多くの施設では、各自の経験から学んだり、経験者が新人に教えたり、看護部の教育担当者が研修にかかわったりしています。業務を教えることが中心で、安全を系統立って学ぶ機会が少ないということを感じていました。

私たちMRM室が研修を提供している病院でも、全体で行う年2回の医療安全研修に、看護補助者の参加が少ない印象をもっていました。それは、勤務時間や雇用形態が影響しているのかもしれませんが、すべてのスタッフに、医療安全という枠組みから日々の仕事を見直してほしいという思いがあり、『病院で働く みんなの医療安全』を書くことにつながりました。

 

T:今、医療界全体がチームで働くことをすすめている時代です。厚生労働省もガイドラインを出していますし、チームの一員として、医療職だけでなく、非医療職の力が求められている現実があります。ただ、病院で働く以上は、きちんと医療安全の視点をもっていただきたいという思いが私たちにはあったので、知識の底上げが必要だと思っていました。

 

○ MRM室には、非医療職の方からのお問い合わせなどもあるのですか?

 

M:直接の問い合わせはないのですが、RMや教育担当の看護師経由で、「看護補助者の方の研修をどうしよう」という声を聞くことはありますね。

 

Y:私たちがコンサルティングで病院にかかわる際、インシデントレポートの分析などを行うのですが、最近、看護補助者がかかわっていたり、クラークとの連携の中で起きるインシデントがみられるようになってきているということはあります。

 

M:看護補助者への教育ということでいえば、MRM室ではもともと委託職員向けの「安全ポケット」という教育ツール(折り畳み式の16ページのマニュアル)を作っていました。内容としては、非医療職向けに、安全に関する基本事項をわかりやすく書いたものです。それを活用している病院に調査した結果、「安全ポケット」を使ってRMが研修をしたり、そのマニュアルを持つこと自体によって、非医療職の方たちにチームの一員という自覚が芽生えるという面があったことがわかりました。それまで学習の機会がなかった看護補助者の方たちにも活用してもらえたのだと思います。今回の『みんなの医療安全』は、このマニュアルが原型になっているんです。

 

T:今まで、病院で働く非医療職の方たち向けには、『みんなの医療安全』のような読み物的な本がなかったと思います。「針刺し」や「転倒転落防止」など、「安全ポケット」で書かれているような最小限の内容については研修を受けているでしょうが、患者さんへのかかわりは、より深く、広くなってきていますから、そのときに起こり得るトラブルに関して、『みんなの医療安全』では、業務ごとに詳しく解説しているところがおすすめです。

 

A:私が臨床現場にいた頃、看護補助者の方たちも学習したいという気持ちはありました。でも、参考になる本がなく、看護師向けの本を一部使用して教えたりしていたんですが、用語が難しいなどの使いにくさがありました。『みんなの医療安全』はそういう点も考慮して、わかりやすい用語や表現を選んで作ったので、学習したいという意欲のある看護補助者の方にはぜひ読んでほしいですね。

 

○ 看護補助者やクラークの方に読んでいただく際、どのように活用するとよいでしょうか?

 

O:私たちがコンサルティングでかかわっている病院に、この本を執筆中であることを紹介した際、「看護補助者への教育を任されているが、今までよい参考資料がなかったのですごく助かる」という声を数か所で聞きました。おそらく、はじめは教育を担当する方に使っていただくのがよいかと思います。教育の場面で、この本の活用方法や具体的な事例を数多く紹介してもらって、部署に一冊とか、病院に複数冊置いてもらえるといいですね。

 

M:看護補助者さんの休憩室に、ぜひ置いてほしいです。私たちの想定では、「個人で買っていただくのは難しいかな、まずは研修で」と思っているところがありますが、将来的には、補助者さん自身に、「私たちはこれがあれば学習できる」「根拠を学ぼう、知識を身につけよう」と思ってもらえると嬉しいです。

 

O:本の中で、看護補助者が主体的に現場を変えていった例を、「よい取り組み」として紹介しています。「自分たちもできる、自分たちが発信して病院を変えられる」という感覚をもってもらう、いいきっかけになると思います。

 

○ 他にはどんな活用ができるでしょうか?

 

T:医療や介護にかかわりたいと思っている一般の人が、病院ってどんなところだろうと思ったときに読んでいただくと、イメージがつきやすいと思います。「病院ではこんなことも起こるんだ」という事例をたくさん出していますので、異業種から転職したり、将来の道として選ぶ若い方にも、とても参考になるはずです。

 

M:本の構成が「清掃・整頓」「ベッドメイキング・シーツ交換・リネン管理」のように、業務ごとになっているので、使いやすいと思います。冒頭に載っている業務の絵を見ただけでも、パッとイメージが湧きます。

 

T:看護学校を卒業して入職したときに、大なり小なりリアリティショックを受けるでしょう。それを少しでも埋めることはできるんじゃないでしょうか。はじめて病院で働く人には特にオススメです。

 

Y:2種類の使い方があると思います。すでに病院で働いている人たちは、こんな事故があるよね、あまり気を付けていなかったね、という「意識付け・振り返り」に使える。そして、これから働く人にとっては、KYT(危険予知トレーニング)のように、病院ではこういう仕事があって、こんな事故があり得るということを、事前に知ることができるという読み方になるんでしょうね。

 

O:看護学校では「統合」の授業で医療安全を教えていますが、難しくなく、読み通すことができるテキストというのは意外にないんです。学生が、基礎看護の実習に出る前に読むとイメージがつきやすいし、先生方にも実習前の教育に役立てていただきたいですね。

 

A:今、実習時間も短くなっていて、学生が手を出して患者さんにかかわることには制限が多いですよね。経験から学ぶことができない分、ここには多くの事例が載っているので、疑似体験ができると思います。

 

M:「Part2〜4」が実際の業務ごとの解説なのですが、その前の「Part1」で安全のために必要な知識をまとめる構成になっています。その前提をもって実習に入ると、ただやることの手順だけではなくて、安全のベースとなる考え方とそれぞれのリスクがわかって現場に入れますから、有効だと思います。

 

T:事務系の人たちにも読んでほしいです。彼らは病院のしくみはわかっていても、現場で何が起こっているか意外に知らないので、これをもとに、「チームの一員として、安全のために事務部門がサポートできることは何だろう」という話し合いにも使っていただけるかもしれません。お互いの業務を知るための相互見学をやっている病院もあると聞きますが、より手軽に知ることができます。

 

K:本当に、どなたが読んでもわかりやすい本になっています。病院関係者だけではなくて、一般の方も、病院にはいろいろなリスクがあることを知ってほしいです。『みんなの医療安全』という書名がすべてを表していると思います。

 

M:私は「病院に行ったときに役立ちますよ」と言って、いろいろな人に紹介しています。

 

S:一般の方にとっては、病院関係者が安全に対してこんなに頑張って取り組んでいるんだよ、ということを知ってもらえるかもしれないですね。

 

A:たとえば、「病院に行ったときは自分から名前を言ったほうがいいんだ」と気づいてもらえると、患者参加につながりますよね。病院だけでなく、もちろんクリニックでも使っていただけます。

 

N:一般の方でも、医療や健康に関心のある方は多いですし、就活中の人や、家族が入院中の人、誰にでも使えるわかりやすい本です。医療安全に向けて患者さんの協力をいただくためにも、ご自身が病気になる前にぜひ読んでほしいです。

 

○ 看護管理者に向けてのメッセージはありますか?

 

M:巻末にある「研修ツール」は、日本看護協会出版会のホームページからダウンロードできるしくみです(http://jnapcdc.com/files/everysafe/)。プリントして解説するという研修だけではなくて、「この資料を見てどんなことを考えますか?」というふうに、看護補助者が主体的に発言できる場をつくってほしいですね。

 

Y:看護師が前に立って「覚えてください」と教えるだけではなくて、これらをもとに自由に発言することをおすすめします。医療安全は、リスクに気づいたらまず伝えるなど、自分の気づきが大切ですから、それを育むために活用してほしいです。

 

N:医療安全を初めて学ぶ現場の人には、うってつけの本だと思います。医療現場が初めての人、その病院で初めて働く人の研修には、非常にマッチしやすい内容です。

 

Y:4月は入職者がまとまっているからフォーマルな研修をしやすいけれど、中途の時期に入った方には、研修が行き届かないという声も聞きます。そういうときに読んでいただくこともできますね。

 

T:病棟内のカンファレンスで、コラムの一つだけでも取り上げて、「この内容をどう思いますか?」と看護師、補助者も含めて自由に発言してもらって、チームとしての力を高めることもできます。

 

Y:よくあるのが、自分の施設で起こったインシデントを取り上げて「これが起こらないようにどうするか?」というやり方なんですが、どうしても自由な発言がしにくいんですね。どこの病院でも起こり得る事例として、「こういうことがあるけれどどう思う?」というふうに使ってほしいです。

 

T:実習カンファレンスのときに、師長さんと学校の先生が、「この部分だけはわかったうえで実習を始める」というポイントを双方で押さえて共有するツールになるかもしれません。カンファレンスでは、患者さんのことや業務のやり方を、スタッフが学生に一方的に伝えるばかりになりやすいんですが、学生と一緒に考えることで、未来の看護師を育てることに使えるかなと思います。指導者も楽しくなるかもしれない。ただの教科書ではなくて、いろんな使い方があるので、うまく“みんな”の手に届くようにしたいですね。

 

K部長:MRM室が作成した本ですが、東京海上グループとしても、病院をはじめとした医療機関の皆さんのサポートとして活用していきたいと思っています。

 

-「看護」2015年10月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –