病いとともにある「その人の生きる」を支える “エンド・オブ・ライフケア”が注目されています

長江弘子

長江 弘子さん
(ながえ・ひろこ)
千葉大学大学院看護学研究科
エンド・オブ・ライフケア看護学
特任教授
2007年聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了(看護学博士)。医療機関、訪問看護などの経験を重ね、1998〜2007年聖路加看護大学地域看護学講師、准教授、2008年1月岡山大学大学院教授を経て、2011年1月に千葉大学大学院看護学研究科エンド・オブ・ライフケア看護学事業の責任者として着任し、現職。日本在宅ケア学会理事。2014年度より放送大学千葉学習センター客員教授

 

 

 

エンドオブライフケア

 超高齢多死社会を迎え、がんや慢性疾患の治療、療養・看取りの場の選択が大きな課題となっています。看護実践者が今まさに模索している“エンド・オブ・ライフケア”について、その概念を整理し、ケアの実践に生かすアプローチ方法を『看護実践にいかす エンド・オブ・ライフケア』に編著としてまとめた長江弘子さんに、読みどころや本書に込めた思いをうかがいました。

 

 

――ご所属の「エンド・オブ・ライフケア看護学」は新たな看護学領域として、どのような活動を行っていらっしゃいますか?

 

エンド・オブ・ライフケア看護学は、2010年より日本財団の助成事業として千葉大学大学院看護学研究科に講座が設置され、「領域横断的なエンド・オブ・ライフケア看護学の構築」の事業推進として、教育・研究・情報発信を進めています。

 

本事業の目的は2つあり、1つは看護学基礎教育課程において生と死について深く学び、死生観を身につけた看護職者の人材育成。もう1つはエンド・オブ・ライフケア看護学の確立と発信です。

 

本講座がめざす領域横断的なエンド・オブ・ライフケア看護学とは、がんや慢性疾患、難病の終末像など、多様な臨床現場における生と死について考え、子どもから高齢者に至るあらゆる発達段階にある人のエンド・オブ・ライフ、すなわち人生の終生期・晩年期を包括的に捉えた看護のあり方を追究する学問と考えています。ですから、エンド・オブ・ライフケア看護学はこれまでの看護学専門領域に共通する領域横断的な視座を探求するものといえます。変化する社会に対応しながら、また日本型エンド・オブ・ライフケアの知の創造拠点となるように活動を進めていきたいと考えています。

 

 

――エンド・オブ・ライフケアのロゴをつくられたそうですね。

 

はい、エンド・オブ・ライフケアのコンセプトをわかりやすく伝えるためにつくりました()。

 

EOLろご

【図】私らしく、一日一日を大切に生きる

 

 

円形の矢印の中で円を描く手は、手話で「太陽」を表しています。外側の左から右に回転する矢印は「太陽が東から昇り西に沈む」、つまり1日の周期を表現し、中央の1輪の花は世界に唯一の花である「私」を表しています。「私らしく、一日一日を大切に生きる」、エンド・オブ・ライフケアとして大切にしたい思いを込めました。

 

 

――編集された『看護実践にいかす エンド・オブ・ライフケア』の内容を教えてください。

 

本書は「基礎編」と「実践編」に分かれています。「基礎編」では、エンド・オブ・ライフケアの考え方や、わが国でエンド・オブ・ライフケアを必要とする社会的背景、そしてエンド・オブ・ライフケアのアプローチ方法としてアドバンス・ケア・プランニングの意味や欧米と日本における先駆的取り組みを紹介しています。

 

一方、「実践編」は書名にもある「看護実践にいかす」ための展開であり、本書の核となる内容です。がん・呼吸器疾患・心疾患・腎疾患・神経難病・認知症の患者と家族、そして小児のエンド・オブ・ライフケアとして、NICUに入院中の子どもと家族、がんに罹患した子どもと家族の事例を取り上げ、その病状経過を軸にエンド・オブ・ライフケアを必要とする場面の看護実践を紹介しています。場面ごとの実践のポイントは、エンド・オブ・ライフケアの6つの構成要素を参考に記述しました。疾患別の事例を取り上げることで、病状経過の特性を捉え、多様なエンド・オブ・ライフがあることについて理解を深めていただけると思います。

 

 

――特にどのような人たちに読んでほしいと思いますか?

 

エンド・オブ・ライフケアはとても幅広い概念ですが、そこには、病いとともに生きる「その人」を支える看護の心が常に根差しているのです。

 

その人の「生きる」を支える看護実践者の方々に読んでいただき、「エンド・オブ・ライフケア」という新しい言葉や見方を介して、いつも当たり前のように行っている看護を意味づけ、深め、整理するきっかけとして本書を役立てていただければ幸いです。

 

 

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

 

エンド・オブ・ライフケアは、その人の生活を支え、その持続を意図して必要な医療やケアをつなぐ継続看護マネジメントです。その起点になるのは、「その人が何を望み、どうしたいのか」を引き出す意思表明支援であり、高度に個別化した「最善の医療やケアとは何か」を問うことが土台になっています。その人は唯一無二の存在であり、主体性を持って生きる1人の人間であることを支えるという、人間尊重に根差した自立支援でもあります。このことは看護師である私たちはもちろんですが、保健医療福祉に携わるケア提供者すべての人が共通して持つべきケアの視点です。

 

私たちは誰もがやがて老いて亡くなっていきます。しかし、生ある限り最期まで自分らしくありたいと願っています。その人らしい生き方を実現するために、エンド・オブ・ライフケアは私たち1人ひとりが考えることなのだと思います。

 

本書はまだきっかけにしかすぎません。今後も、日本の生活文化に即したエンド・オブ・ライフケアの有様を、読者の皆さんとともに形づくっていきたいと考えています。

 

 

-「看護」2014年6月号「SPECIAL INTERVIEW」より –

 

看護実践にいかす エンド・オブ・ライフケア