CC2013年11月号掲載【地域看護師とがっちり協力日常的な病気に幅広く対応――ドイツの家庭医】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.27〉
【地域看護師とがっちり協力日常的な病気に

幅広く対応

――ドイツの家庭医】

 

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待合室。子ども用のかわいい椅子とテーブルがあり、絵本やおもちゃも置いてある

 

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診察室。テーブルを挟んで手前に患者、向こう側に医師が座る。左手にはもう1つの診察室に通じるドア。右手にはベッド

 

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診察室にあるもう1つのベッド。クリニックで心電図や超音波、血液検査などができる

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)

遠距離在宅ケアの超高齢者3人は、ケアチームのおかげで落ち着いています。1人はグループホームで平穏。2人暮らし組は、トイレが自力でだいぶできるようになり、身体介護は休止。訪問看護と訪問診療、シルバーサービスの家事援助です。

mkimiko@mbf.nifty.com

 

地域包括ケアのキーパーソンとして注目が高まるかかりつけ医。欧州では「家庭医」と呼ばれ、英国・オランダ・デンマークなどで地域の看護師らと協力チームを組んで、日常的によくある病気や健康問題の大半に対応します。私もドイツで家庭医にかかり、良さを実感しました。

英国・オランダ・デンマークなど欧州の多くの国々では、国民は家庭医に登録するのが義務です。ところがドイツでは日本と同じように、どの医師にかかるのかは患者の自由であり、家庭医を持つことは義務ではありません。
でも現実は、ドイツ国民の90%以上が家庭医を持っています。これはつまり、家庭医を持つことには“実質的なメリット”があることを物語っているのでしょう。患者(被保険者)の約4割は家庭医のみを受診し、あとの4割は家庭医を受診してから適切な専門医を紹介されており、直接専門医を受診したのは約1割だけというデータもあります(ドイツの2005年第1四半期統計調査)。

 

家庭医にかかってみました

 

私もドイツに住んでいたとき、家庭医にかかりました。腰痛がひどかったのです。日本の整形外科でたくさん処方された痛み止めをずっと飲んでいたのですが、底をつき、それでも痛みはどうしようもなく、日本語が通じるという家庭医に電話で予約をして行きました。
クリニックはスーパーの向かいの銀行の2階、バス停のそばの便利な場所でした。受付で名前を告げ、具合の悪そうな人が何人も待っているのは日本と同じ。待合室には子ども用の椅子とおもちゃもあります(写真1)
間もなく呼ばれると、10畳以上ありそうな診察室の真ん中に大きなデスク(写真2・3)。座って待っていると、隣の部屋のドアから日本人の女医さんがさっそうと現れました。ドイツで医学を学び、フランクフルトで開業して25年になるH医師です。向かいの椅子に座るなり、元気な声で「どうされましたか?」。聞かれるままに、私は今の痛みとこれまでの経過を一通り訴えます。その後で、医師は私のそばに来て「ちょっと立ってみてください」と私の姿勢や体の動きを診たり、手を当ててどこが痛いか探りました。
私は「整形外科に行くべきでしょうか、ここで診てもらえますか」と、気になっていたことを聞きました。答えは「私はスポーツ外科や、はり治療もしているので、腰痛はよく診ています。検査や手術が必要なときは病院を紹介しますよ」。私は「ああこれが家庭医なんだ」と納得でした。
最初のころは痛み止めの処方と腰痛体操の指導が主です。日本の参考書も紹介されて、さっそく取り寄せて実践し、何度か通ううちに体操指導が増えて痛み止めが減っていきました。その医師と話すと何だか元気になり、「これが医師―患者の信頼関係の効果なのか!」と思い当たりました。

 

ドイツの家庭医の概要

  • 家庭医チーム 診療科を問わず、日常的によくある病気や健康問題の診断・治療を行う、医師と看護師など多職種の包括的なプライマリケア・チーム。専門開業医や病院での検査・治療が必要な患者は適切な医療機関に紹介し、患者の代弁者として専門医療機関との間をとりもつ。検査や治療が終わればまた家庭医が引き継ぐ。
  • 家庭医と専門開業医 正確には「一般的医療医師」だが、日常的には「家庭医」と呼ばれる。保険診療を行う医師12万153人のうち、家庭医は約4割の5万6849人(2010年)。このほか専門開業医として婦人科医、小児科医、整形外科医、精神療法医がいる。
  • 休日夜間の緊急医システム 家庭医のクリニックが閉じている夜間や休日の対応のために、大きな町では、保険者が運営する緊急医システムが発達。緊急医の詰所が市内にあり、そこで対応する(システムが整っていない地方もある)。

→続きは本誌で(コミュニティケア2013年11月号)