NT2013年6月号連載【退院支援の仕組みづくりと実践事例】紹介

NT2803-表紙下ナースたちが退院支援の仕組みをつくり、うまくいっている病院の実践事例を1つ取り上げ、「意思決定支援」と「自律支援」*)を軸に病棟ナースと在宅ナースがそれぞれの実践を振り返ります。加えて管理者から仕組みづくりの経緯とその内容をうかがいます。

 

 

 

 

 

[監修]

宇都宮 宏子 (在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス)

[筆 者]

田中 三奈子(退院調整看護師)

藤本 佳代(訪問看護師)

上山 早苗(看護部長)

 

今月の病院 

萩原中央病院

 

 

事例紹介

 

Aさん(85歳/女性)

 

Aさんは、夫(86歳)と次男の3人暮らし。肝硬変末期で腹水貯留による体動困難と倦怠感が強く、長男が住む近県の病院に50日間入院していたが、「夫が毎日面会できる自宅近くの病院がいい」と当院に転院した。長男夫婦は共働きだった。

 

入院前は何とか自立した生活を送っていたが、病状は日々悪化し、転院時にはポータブルトイレへの移乗がやっとできる状態だった。

当院入院時、夫と長男は「自宅退院は無理」と決め込んでいる様子だったが、Aさんは入院時の面談で「本当はね、住み慣れた家に帰りたいわよ」と口にした。患者の意思を家族に伝え、協力体制をつくろうと「おうちに帰ろう」を合言葉に退院支援をスタートさせた。病状が刻一刻と進行する中、自宅へ帰る貴重な最後のチャンスであることを全員に認識してもらい、「高齢夫の一人介護」のイメージを払拭して「家族が互いに支え合う介護」への発想転換を短期間で成し遂げるため、「退院支援の3つの道具」(後述)を使い、病棟看護師や他の医療スタッフとの連携をはかった。

 

面談を重ねるごとに夫、長男夫婦、次男と順に自宅退院へと気持ちが一つになった。家族の力を最大限に引き出すことで、腹水の除水という医療依存度が高く、病状が進行し退院を諦めかけた時にも、本人・家族の思いは変わらず、在宅スタッフの支援を受けて入院から20日目に自宅退院することができた。

 

Aさんはその後、再入院となり最期を迎えたが、家族からは「こんな素敵な退院の選択肢があったのですね、みんなで頑張りましたよね」との言葉を頂き、看護の喜びを実感できた。(続く)