褥瘡が発生する要因は、必ずその人の生活の中から見つけることができます。ケア環境の整った“病院だからこそできるケア”に留まらず、介護施設や在宅でのケアを見すえて高齢者の生活を豊かに支えるために“ポジショニング&シーティング”と“スキンケア”という基本的なケアから再確認してみませんか。
『見直そう,褥瘡ケア “ポジショニング&シーティング”と“スキンケア”』では、誰もが知っておくべき褥瘡の予防と管理の知識・技を見直し、問題点を改善する実践について紹介しています。
■高度化・専門化するケアの影で
医療施設での褥瘡発生は、診療報酬の改定による管理体制の見直しなどにより減少しています。さらに次々と発売される新しい創傷被覆材を使用したケアや専門的な用品・手技による高度なケアなど、皮膚・排泄ケア認定看護師をはじめとする医療者による実践が広がった結果、重度の褥瘡を医療施設で見かけることは少なくなりました。
しかし、医療施設への入院というのは患者にとっては「治療のため」の特殊な期間と場所であり、入院期間が過ぎれば、患者は在宅や介護施設などの「生活」の場に戻っていきます。そして、要介護の高齢者が生活する介護施設などにおいては、まだまだ皮下組織まで達する深い褥瘡を見かけることもまれではなく、高齢者の生活に合わせた褥瘡の予防・管理の取り組みについて、介護者などに十分な知識や実践の蓄積があるとは言いがたい現状があります。
本書では、こうした状況を踏まえ、「生活の幅を広げること」をキーワードに、誰もが行える・誰もが知っておくべき褥瘡の予防と管理の方法を“ポジショニング&シーティング”と“スキンケア”の基本的な褥瘡ケアを中心に見直しました。
■“ポジショニング&シーティング”で褥瘡予防!
退院して介護施設あるいは家に帰り、日常生活を送る上で大切になるのは、その人の「QOLをできるだけ高める」ことです。例えば、口からおいしく食事をとるには、きちんと座った姿勢でいられることが前提になります。前かがみになった状態では呼吸野も狭まり、内臓も圧迫されて食欲も落ちてしまいます。介護施設や在宅において座位環境を整えることは、離床時間の拡大や生活不活発病の予防の観点からも重要です。
しかし、ただ「起こせばよい」というものではないことも事実です。寝ているときも起きているときも安全かつ安楽な姿勢でいられることは、褥瘡予防はもちろん、生活の幅を広げるという意味でとても大切です。車いすの選択ひとつ、クッションの選び方や当て方ひとつによって患者の安楽は大きく変化してきます。
本書では臥位時の“ポジショニング”、車いす上で座位姿勢を保つための“シーティング”において、多く見られる問題姿勢を、安楽で安全な姿勢に整えるためのポイントを解説します。
正しい“ポジショニング&シーティング”の方法を習得することは、同時にケアをする介護者の安全にも大きくかかわってきます。誤った移乗方法で介護者が腰を痛め、介護できない状態になると、高齢者は「寝たきり」にならざるを得なくなります。「移乗によるケア」として最新の知識を基にした手順も紹介していますので、本人だけでなく介護者にとっても安楽・安全なケアのきっかけになれば幸いです。
■“スキンケア”で褥瘡予防!
もう1つの褥瘡予防管理方法として“スキンケア”を取り上げています。それは、高齢者の皮膚は乾燥しており、ちょっとしたきっかけで容易に皮膚のトラブルが発生してしまうためです。老化は誰もが避けては通れない生理的変化ですが、そこに適切なスキンケアを行うことで皮膚トラブルのリスクを軽減することができます。
本書では、見逃してはならない褥瘡発生のサインの見分け方、リスクの高い患者へのアセスメント、入浴時など生活場面における観察点、高齢者に多い皮膚トラブル別の観察点を、正しいスキンケア方法と共に提示しています。
高齢者は自分の皮膚の老化を目の当たりにして、自分が高齢であること、自らの衰えを自覚し、あきらめに似た気持ちを抱いていることがあります。スキンケアの効果を実感することは、褥瘡予防としての効果に加え、気分が明るく若返った気持ちをもたらします。
スキンケアは、特殊なケアではなく誰もが行えるケアです。忙しい現場であっても看護ケアとして取り入れることで、患者のQOLを高め、生活の幅を広げることにつながると思います。
また、関連Topicsとして“フットケア”についても触れています。高齢者はセルフケアが困難となった状況では、足病変のリスクが高まります。そこで基本的なケアとして「皮膚の観察」「フットケア方法」「除圧方法」「日常生活指導」のポイントを紹介しています。また特にリスクの高い状態として「糖尿病患者のフットケア」についても取り上げました。最近多い足のトラブルを未然に防ぐためにも実践してほしい基本的なケアですので、ぜひ、ご一読ください。
-「看護」2013年5月号「SPECIAL BOOK GUIDE」より –