文と写真・編集部
[特別養護老人ホーム吹上苑の概要]
〈定員〉98人/短期入所10人〈利用者の平均年齢〉87.3歳
〈平均要介護度〉4.0
〈職員体制:常勤換算〉施設長1人、看護職員8人、機能訓練指導員1人、介護職員69人、介護支援専門員1人、生活相談員2人、管理栄養士2.5人、栄養士4.5人、調理師2人、調理員3.6人、事務員4.8人
〈併設サービス〉デイサービス、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター
特別養護老人ホームの入居者、ショートステイの利用者などの医療依存度が高まり、今、“特養における看護”が何をなすべきかが問われています。本シリーズでは、介護職との連携をとりながら、入居者・利用者の望む“生活”を支える“看護”を実践している特養看護職から、その取り組みや思いを報告していただきます。
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特別養護老人ホーム「吹上苑」は、埼玉県看護協会が運営しています。看護協会が運営する特養は全国的にみても非常に珍しく、編集部は「“看護”が施設中に満ちあふれているのだろうか」と、ずっと取材をするチャンスをうかがっていました。そして、2012年4月、ついに取材の機会を得た編集部は吹上苑へと向かいました。
田園の中に建つ吹上苑は本館と新館に分かれ、本館は1995年に開設した従来型特養で定員50人・ショートステイ定員10人。ハード面で新館に負けないように毎年少しずつ改修をし、職員は試行錯誤し、ユニットケアを実践しています。新館は埼玉県における新型特養第1号としてスタート。全室個室・ユニットケアで定員48人です。
吹上苑では、「その人らしく」生活が送れるように、個別のかかわりを通じて“最期”まで支えていくことを理念に、スタッフたちが頑張っています。本館・新館ともに、静かな時間の流れと楽しみの時間を確保し、生活に潤いと喜びを見いだすことを職員の使命としています。
編集部が吹上苑に着くと、看護職の施設長・関口敬子さんが出迎えてくれました。
関口さんは、日本看護協会の看護師職能委員会Ⅱの委員でもある施設看護のベテラン。とても柔和な表情は、特養で流れている、ゆったりとした雰囲気に自然な感じでマッチしているように思いました。 会議室には、すでに7人の吹上苑スタッフの皆さんが勢揃いしてくれていました。まず、吹上苑の概要を関口さんからうかがいました。
「なぜ埼玉県看護協会が特養の運営にかかわることになったかというと、もともと吹上苑は1995年3月に彩福祉グループが立ち上げた特養ですが、1997年に汚職事件が発覚したことに始まります。吹上苑は埼玉県高齢者福祉課の管轄になり、その後すぐに当時の埼玉県副知事・坂東眞理子さんが埼玉県看護協会に引き継ぎを懇願したのです。
当時の埼玉県看護協会長・新井サダさん(故人)は、会員と協議するため臨時総会を開催し、5時間の議論の末、小差で吹上苑の運営が承認されました。その後は、2004年新型特養を増築、2006年地域包括支援センターを受託、2010年には鴻巣市吹上の街中に通所介護施設・あかね雲吹上苑を開設しました。運営はやはり“いいケアをしたい”ということで全国の先駆的な施設にできるだけ見学に行き、また研修にも積極的に参加して、いいものは取り入れようという姿勢を貫きました。スタッフがいい、というものはなるべく取り入れていくようにしています」
吹上苑でケアがしたい――多職種の声
続いて、皆さんから簡単な自己紹介をいただきました。まず、看護職で全体の統括リーダーでもある小林悦子さんです。
「吹上苑に来て10年たちました。利用者さんの笑顔を見るのがとても楽しみです。いろいろな事情で入居されているので、その方がその人らしく最期まで、いい思い出をつくっていただいて一緒にいられればいいなと思って、日々のケアをしています。ここは看護職が8人いて恵まれています。それぞれがいろいろな診療科を経験しているので、とても心強いですね」
次に、看護職の小倉暁美さん。
「私も吹上苑に来て9年目になります。吹上苑は施設長はじめ、栄養士・ケアワーカーなどの連携が十分にとれていて、とても働きやすいのです。利用者さんは高齢ですので、今日、体調がよくても、明日はどうなるかわからないな、といつも思いながら、“今”をよく過ごしていただくことを考えて毎日のケアに当たっています」
そして、主任リーダーで生活相談員の中村敏子さんです。
「最初はデイサービスで、2000年の介護保険が始まった年に特養のケアワーカーになり、2009年に相談員になりました。今はケアワーカーほど利用者さんと密接にかかわるわけではないので、吹上苑に来られた方に“ここに来てよかった”と思ってもらえるように、相談員としてかかわっていきたいと思っています」
管理栄養士の西山紀子さんは栄養科の主任リーダー。精神科病院から介護保険が始まった年に吹上苑に来られました。
「2005年に栄養ケアマネジメントが始まり、それが後押しとなって、ナースやケアワーカーとよく話をするようになりました。病院と違って特養は“生活”が主体ですから、“食べること”の大切さ、“美味しい食事”が重要だと思っていて、その点で、吹上苑は看護協会の施設なので“食”に対する思いをとても大切にしてくれているなと感じています。実際、食べられている利用者さんは血液の数値もよくなるんですよ」
そして、ケアワーカーでフロアリーダーの内野有希子さん。吹上苑のケアワーカーは利用者に対して1対1.6の配置ということで、かなり充実したスタッフ数です。
「吹上苑で9年目になります。ユニット型の個別ケアをするようになって、とてもゆったりしていて、利用者さんのペースに合わせてケアができるところが魅力です。看取りについては、入職して1年目のときに初めて経験して、そのときは“また、利用者さんが夜、急変したらどうしよう。自分はケアワーカーとしてやっていけるのかな”と、とても不安に思っていました。でも、ナースにいろいろ教えてもらって不安がなくなりました」
最後に社会福祉士で施設ケアマネジャーになって1年の櫻井和佳さんです。
「2006年にケアワーカーとして吹上苑に入職して、2009年に相談員になり、今も兼務しています。ケアマネジャーになって、利用者さんだけでなく、残される家族のことも考えるようになりました。去年くらいから“看取りのカンファレンス”をするようになったので、看取りにかかわるさまざまな職種や家族の気持ちを1つにまとめることも大切な仕事だなと思うようになりました」
利用者・家族に寄り添いながらもシステム化された吹上苑での“看取り”
看取りで最も重要な“意向の確認”
関口さんは“吹上苑での看取り”について、
「小林さんと小倉さんが入職して“看取り”が格段に進み、今ではほぼ90%以上の入居者を見送ることができています。当初は看護が主体的に動きましたが、ケアワーカー・相談員・管理栄養士など、ほかの職種が力を発揮し、多職種連携が進み、“看取り”が定着したのかなと思います」と話します。
そこで、吹上苑での“看取り”に積極的に取り組んできた小林さんに印象に残っている看取りを紹介していただきました。
→続きは本誌で
-「コミュニティケア」2012年9月号「特別養護老人ホームでの“看護”の実践」より –