評者:久保田 聰美(近森病院看護部長)
退院支援・退院調整は誰のためにしているのだろうか。「もちろん、患者さんやご家族のためですよ」と現場の担当者は答えるだろう。「病院経営のためにも重要でしょう」と管理者は答えるかもしれない。「診療報酬でも評価されましたから」と聞くと少し切ない気持ちになるのは私だけだろうか。もちろん、診療報酬で評価されたことには大きな意味がある。それだけ社会的な要望も強いのだろう。だからこそ、在院日数の短縮だけが目標ではないはず……。そんな思いを抱いている看護管理者にこそ、この本をお勧めしたい。
退院支援・退院調整の現場で頭を悩ませながら実践を積み上げ、体系化してきた先輩たちが惜しげもなく具体的なヒントを提示してくれている。このヒントを基に、自分たちの足元を見つめ直すチャンスにもなりそうだとワクワクしてくる。退院支援って、連携室のナースだけに独り占めさせとくなんてもったいない! 急性期の病棟で働くナースだからこそ、できることがたくさんあるはず。退院調整に関わるスタッフへの動機づけも重要だなあ、とこの本を読み進むにつれて、看護管理者としてのハートに火をつけられた気分になる。
そして、何よりこの本の素晴らしさは単なる実践事例集に留まっていないところにある。退院支援における“自立支援”の知恵を集め体系化した向こうの目指すものは、患者、家族そして国民一人ひとりの価値観にも働きかける“自律支援”だと具体例を通して気づかせてくれる……そんな一冊である。
-「看護」2012年9月号より –