評者:堀井 とよみ(京都光華女子大学健康科学部看護学科客員教授)
本書は、2011年3月11日に起きた東日本大震災の被災地の悲惨な状況を、岩手県大槌町保健師の経験を持つ看護教員が伝えた言葉をきっかけに、全国保健師教育機関協議会が大槌町との調整に奔走し、全国の会員校や保健師に呼びかけ、全戸家庭訪問が実現した全記録です。
災害発生後50日目から、保健師による全戸訪問で住民ニーズを正確に把握した意義は大きいと言えます。
災害時の対応は目の前の現象に追われがちですが、限られた資源を有効に活用するためには、住民ニーズを正確に把握し支援することが大原則であると再確認させられました。 当時、多くの首長は避難所への看護職の協力を訴え、全国の自治体も対応していました。このような情勢の中で大槌町は、保健師による全戸訪問の申し入れに対し発災後50日目で受け入れ、全戸訪問の分析結果から、発災後のニーズと対策の提案を尊重し、具体的な取り組みを開始しています。
本書を読み終えて再認識したのは、保健師活動の基本は家庭訪問で、災害時はそれまでの保健師活動の成果が明らかにされることであり、今回は公衆衛生看護過程の展開が短期間に行われていることでした。また、発災後、保健師が優先的に取り組む活動は何か、他の看護職との役割分担は何か、平常時からどのような準備体制が必要かなどを示唆しています。保健師だけでなく、看護職の皆さんに一読していただきたい書として推薦します。
-「看護」2012年7月号より –