SPECIAL INTERVIEW 訪問看護管理者の関わりが 看護師の持つ“よきもの”を呼び醒ます

中村 順子さん

(なかむら・よりこ)

 

前・秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授

 

秋田県生まれ。聖路加看護大学卒業後、聖路加国際病院内科病棟で病棟看護を経験し、1985年からは東京都世田谷区で老人保健法下の訪問看護を始める。その後、特別養護老人ホーム、医療機関からの訪問看護を経て日本訪問看護振興財団立訪問看護ステーションで訪問看護師、同ケアプランセンターでケアマネジャーとしての実践を経て、2007年から故郷・秋田で看護教員に。2022年3月に退官。2008年聖路加看護大学大学院博士前期課程、2011年青森県立保健大学大学院博士後期課程修了。

 

シリーズ【看護の知】は、学術論文として言語化された「優れた看護の“実践知”」を、より多くの看護職に読んでいただけるように“読み物”として再構成した書籍です。シリーズ第9弾となる『スタッフを「活かし・育てる」訪問看護管理者の関わり』(以下:本書)は、初めての在宅領域の学術論文を書籍化したもの。16人の熟練訪問看護管理者が語る“言葉”が分析・整理され、そこにはスタッフを「活かし育てる」方法だけでなく、“看護の本質”が随所に表されています。自ら訪問看護師を経験した中村さんだからこそ書けた本書についてうかがいました。

 

■「問いを立てる看護実践」に目覚めて

 

——本書の特徴は熟練の訪問看護管理者による“話し言葉”がふんだんに収録されている点です。このような形式で研究をまとめたのはなぜですか?

 

その質問にお答えするには、まず、私が大学院に入学したところから振り返らないといけませんね。私が大学院生になったのは47歳でした。それまでは主に在宅領域で看護実践活動を続けていました。

 

実は病院から訪問看護の世界に入ったときは、何もかもが「?」の状況でした。患者の置かれた環境、ケアの仕方、家族との関係……、全てが病院にいたときの経験だけでは理解できなかったのです。そして私は「ニーズって何だろう、私たちはどう捉えていたのだろう?」「家族とどう関わればいい?」など、さまざまな問いを立て、それらに対処する「問いを立てる看護実践」をするようになりました。

 

そうして看護実践を重ねるにつれ、「この実践は理論的に見たらどうなるのだろう?」という次の問いが浮かぶようになり、大学院への進学を決意しました。大学院では多くの学びが得られましたが、とりわけ「訪問看護師個人の実践で得られた経験知が言語化されて、一般にも伝わるようになっていない」ことに驚きました。同時に「実践知を形式知にできる研究手法がある」ことに気づきました。

 

さらに「訪問看護の発展は管理者がキーパーソン」と思っていたため、運営が大変な中でも経営的にうまくいっている訪問看護ステーションの熟練管理者の実践知を形式知にすることに取り組んだのです。そのためには、ただ「インタビュー」するだけではなく、管理者たちの“一日”に同行する「参加観察」で、管理者たちが日常で口にする“言葉”も収集しました。そして、収集された膨大な“言葉”のデータを分析・整理してカテゴリーに分類したため、研究に“話し言葉”がたくさん示されているのです。

 

——本書を読むと、熟練管理者の皆さんの“言葉”が生きいきとした口語で記されているので、まるで現場にいるかのような臨場感がありますね。

 

管理者の皆さんは本当によく語ってくれました。その内容は感動的とも言え、訪問看護の素晴らしさや訪問看護師であることの情熱をあますところなく示してくれました。「看護師ってなんてすごいのだろう! 看護ってなんて奥深いのだろう」と感動の涙が流れたこともしばしばでした。

 

■病院のナースにも知ってほしい

「看護師の持つ“よきもの”」とは

 

——本書では、熟練管理者から発せられる多くの“言葉”を、きめ細かいカテゴリーに整理して分析していますね?

 

7つの大カテゴリー、17の中カテゴリー、59の小カテゴリーがあって、それらをすべて包括するものとして中核カテゴリー「看護師の持つ“よきもの”を呼び醒ます」があります。

 

ここで言う「看護師の持つ“よきもの”」には3つの事柄が含まれます。1つは、看護師としての達成感・自己効力感、自分が本来持っている強み・可能性、自分の弱みの活かし方など「看護観に関わる専門職性」、2つ目は、地域の重要なリソースとなる「社会的役割」、そして3つ目は、療養者・家族との近い関係から得られる一体感・充実感、その“近づき寄り添う看護”を実践することによる満足感などの「人としての味わい」です。

 

ところが、これらは「看護師が自分では気づかずに持っていたもの」であったり、「かつては気づいていたけれど、経験や慣れの中で忘れかけていたもの」であったりします。

 

それらを“呼び醒ます”のが管理者の重要な役割と私は考えています。では、どうしたら、訪問看護ステーションのスタッフである看護師に“よきもの”を呼び醒ますことができるのだろう、と熟練訪問看護管理者たちの実践を拾い上げて整理したのが本書なのです。

 

右の囲みの「主な内容」のうちⅡ〜Ⅴの章で7つの大カテゴリーを解説しています。ⅡとⅢでは「管理者自身が行うこと」に関する3つの大カテゴリー、Ⅳでは「スタッフを活かす管理者の関わり」に関する3つの大カテゴリー、そしてⅡ〜Ⅳを統括するカテゴリーをⅤで解説しています。

 

本書では、これらに沿って、熟練管理者たちの声を紹介しています。ここは訪問看護に関わる人たちはもちろん、月刊『看護』の主な読者である病院の管理者をはじめ、地域連携部署のナース、そして患者の退院先である在宅に思いをはせる病棟ナースにも、ぜひ読んでほしいですね。きっと“真の在宅看護”を知っていただく機会になると思うのです。

 

——ところで、中村さんは3月に大学を退官されて、4月からはご自身が訪問看護ステーションの管理者にもなられるとのことですね。

 

はい、訪問看護師として実践の経験はありますが、管理者になるのは初めてです。不安はありますが、自身の研究、つまり本書をテキストにしてチャレンジしていくつもりです。

 

 

新刊情報

シリーズ【看護の知】09

スタッフを「活かし・育てる」

訪問看護管理者の関わり

 

中村順子/著

●A5判 160ページ

●定価 2640円

(本体2400円+税10%)

ISBN 978-4-8180-2400-7

発行 日本看護協会出版会

(TEL:0436-23-3271)

 

 

 

 

 

 

 

[主な内容]

Ⅰ 看護師の持つ“よきもの”を呼び醒ます関わり

Ⅱ 期待する訪問看護師像を示す

Ⅲ スタッフを活かすために管理者自身が行っていること

Ⅳ スタッフを活かすための3つの関わり方


トライアングルの中にある価値の双方向性の確信により 三者が活かし・活かされる

Ⅵ スタッフを“活かし・育てる”関わりのさらなる展開

Ⅶ 管理者の実践知としての“訪問看護の在りよう”

Ⅷ 訪問看護管理から導かれた看護実践・看護教育への提言

 

看護2022年6月号より

 

 

 

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