「認知症の語り」の教育的活用を考える

書籍『認知症の語り』は第1部と第2部に分かれています。第1部は認知症のご本人とご家族による語りのパートで、本書の核となる部分です。第2部は第1部の解説編的な性質をもつものです。

 

本書のもとになった「認知症本人と家族支援のためのWebサイト」プロジェクトの研究代表者・竹内登美子氏は、当プロジェクトの趣旨の1つに「人々の認知症に対する偏見が改善し、“認知症とともに暮らす生活者”としての理解を深めてもらう」ことを挙げています。

 

人々の認知症に対する偏見に、「アルツハイマーになると人格がなくなる。何もわからなくなる」というものがあります。

次の語りは、それに対する本人の思いです。

 

「アルツハイマーっていうのは大変なことだと思うんですけど、でも、一人ひとりの人格があって、その中で私たちが生きているっていうことを、絶えず私が自分に言い聞かせていると思うんですね。だから、それをいろんな人がわかってくだされば、アルツハイマーの人にとっても、私と同じようにわかっていただくことができるんじゃないかな、というふうに思いますね。

 

アルツハイマーっていうのは、まだ、死と同じだというふうに思っている人が多いわけです。だから、「アルツハイマーでも、ちゃんと生きていくことができるんだ」っていうことを、少なくとも私が声を出していきたい、というふうに思うんですよね。

 

本当に皆さん、何ていうか……、「こういう病気は本当にどうしようもない。何もできない」と、多くの人がその病気を考えていると思うんですよ。だから、それに対して、私は少しでも皆さんに「そうでないんだよ」ということを言えることができれば、一番いいのではないかな、と思います。

 

本書より 語り129[p.360]

 

「一人ひとりの人格があって、その中で私たちが生きているということを、絶えず私が自分に言い聞かせている」と語るアルツハイマー型認知症本人の言葉が、それらの偏見の見直しを迫っているように思えないでしょうか。

 

 

 

当プロジェクトの趣旨として、さらに「保健医療福祉の従事者に、認知症の人とその家族の生活実態を知ってもらい、認知症ケアに関する改善につなげる」ということも挙げられています。

 

認知症が専門ではない医師や看護職、介護職者等の認知症ケアに対する理解は、地域間格差や施設間格差が大きいのが現状です。そこで、

 

●認知症医療と介護の現状を改善するためには、今まで保健医療福祉の従事者が把握困難であった認知症の人とその家族の生活実態を、認知症本人の語りによってリアルに知ってもらいたい

 

●この語りのデータベースによって、保健医療福祉従事者が認知症の人とその家族に対する理解を深め、対象に応じたケアの方法を探究したり、効果的な患者-医療者間のコミュニケーションを行い、認知症本人や家族介護者の希望や状況に合った質の高い医療ケアの提供に貢献するなど、新しい医学・看護学教育プログラムの可能性につながってほしい

 

と竹内氏は本書に記しています。

 

 

 

認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパンの「健康と病いの語り」データベースは、病気の診断を受けた人やその家族が、同じような経験をした人たちの「語り」に触れて、 病気と向き合う勇気と知恵を身につけるために作られたウェブサイトです。

2018年9月現在、認知症、前立腺がん、乳がん、大腸がん検診、臨床試験・治験、慢性の痛み、の6領域が公開されています。

 

ディペックス・ジャパンでは、医療系教育に携わっている方を対象とした教育ワークショップを定期的に行っています。

 

第6回教育ワークショップ「患者の語り(ナラティブ)が医療者教育を変える」が10月27日(土)に開催されます。

詳細は以下をご覧ください。