グループマネジメントの基礎理論と実践的知識を解説して好評を博した書籍が版を重ね、『協働と連携を生むグループマネジメント入門 第2版 リーダーとしての基軸づくり』として発行されました。
著者・古川久敬氏に、リーダーが基軸を持つことの重要性と、院内外で連携を進めるためのポイント、看護管理者への期待などをうかがいました。
――本書初版は2010年に発行されました。読者の方からはどのような感想が寄せられましたか。
本書は、看護の実践場面と、グループマネジメントの基本や原理を結び付けることを意識して書かれています。
「全体がよく整理されていてわかりやすい」「今まで、スタッフしか見てなかった。病院全体、他部署、病院外の動きを見ることの大切さに気づいた」「マネジメントの意味がつかめた」「自分の基軸を持つことの必要性がわかった」「心のモヤモヤが晴れ、意欲がわいてきた」などです。
実践と知識が結び付くと、日々、自分が行っていることが互いにつながり、言葉で説明できるようになり、自信となります。
管理者として、とっさの一言がうまく言えなかった経験をお持ちかもしれません。本書の第2章「自分の基軸をつくる」を読んでいただくと、なぜうまく言えなかったのか、どうしたらよいのか、よく理解していただけると思います。
第2版の読者にも、理論を知り、根拠を得ることで、マネジメント実践の自信を高めていただきたく思います。
――第2版が生まれる契機として、この6年での病院を取り巻く環境の大きな変化がありました。
地域包括ケアシステムの構築に向けて、大きく動いていることがわかります。質の高い連携を意識し、実践できなければ競争力を持てません。第2版は、このことを強く意識しました。
これは、研修受講者のレポートからも明白でした。他職種やチーム医療の言葉が出始め、やがて他職種との連携の「他」は、「多」に変わり、「多職種」と書かれることが増えました。
――そのような中で管理者はどんな役割を期待されるのでしょうか。
「基軸」を基に、自分のあずかる部署の課題をしっかり実現することはますます重要です。そのためには、院内の環境も、外部(地域)の環境も動いているので、視点を上げ、視野を広げて、自分たちの部署がどうあるべきか(課題)をいつも確認しなければなりません。
そして、自職場完結を脱して、協働と連携を確実に実践できる職場づくりが期待されています。
――その協働と連携に難しさを感じている管理者が多いようです。
そこで、この第2版では、協働や連携の際に生じる「壁」や「溝」について、看護師の皆さんが、何にどのくらい感じているかの調査をして、その分析結果を、第7章に加筆しました。
わかったことは、「動くと壁や溝は生まれる」ということです。新しい課題の実現には連携が必要です。そこで他部署に働きかけると、考え方や利害の違い(ギャップ)が鮮明になり、思うようには進まない現実に出会います。
「壁」や「溝」は、動くと必ず生まれるものと承知しながら行動することがポイントです。
――「壁」や「溝」はどのように乗り越えていけばよいのでしょうか。
関係者と「共に見るもの」を意識し合うことです。そうすると、壁や溝がなくなることはなくても、壁や溝を乗り越える感じが持てます。目標設定面談も、そういう機会の1つです。
「共に見るもの」とは何か。第7章で詳しく述べていますが、病院の理念、経営課題、病院長や看護部長の方針、看護部や病棟目標、診療報酬などの制度改定(外圧)、関係者同士でつくる目標なども、「共に見るもの」に入ります。
その上で、本書で説明している「共同一体を基調とする対人コンタクト」を、持ち続けることです。反対している人たちも、アンビバレントな気持ちがあり、半分はわかっていて、やらないといけないとも思っています。
ですから、共同一体の姿勢を持って、「共に見るもの」を見すえながら、連携して取り組むことの意義を冷静に根気よく伝えます。
――最後に、これからリーダーとなる方や看護管理者の皆さんへの期待をお願いします。
「あの病院はよい病院」との評判には、設備のよさなども含まれますが、やはり関係者の方々の働き、そしてそれを動かしているマネジメントの素晴らしさが決め手です。
第1章にあるように、マネジメントは組織にとってかけがえのないものです。その任に就くことは、病院にとってかけがえのない仕事に携わる意味を持ちます。まず、それに自分が選ばれたことにプライドと自信を持ちましょう。
そして、基軸を持って誠実に取り組めば、一緒にやってくれる人は必ずいます。当初は誰もが思うようにはいきません。そんなときも「自分には資質がない」と自分にダメ出しすることなく、基軸を思い出し、前を向きましょう。
-「看護」2016年10月号「SPECIAL INTERVIEW」より –