NT2013年8月号連載【チームづくりのお悩み相談】紹介

NT1308表紙NT2013年8月号の【チームづくりのお悩み相談】のお悩みは、

 

「“指導に向いていない”などと、

後輩指導に消極的な人がいます」

 

 

チーム全体へ向けた状況説明・確認の重要性

 

上司から提示された方針に納得がいかない、提示された方針に反発が出るなどといった状況は、チームが混乱期から統一期に向かうための重要な局面と言えます。メアリー・パーカー・フォレット(Follett MP)は「人は本来、人の命令では動かない。人は、命令の背景にある状況の理解・納得で動く。命令の非人間化が必要だ」と言っています。

 

方針への反発が出た時こそ、チーム全体であらゆる角度から状況を理解し合うチャンスです。フォレットの「状況の法則」とは、リーダーの主張の「社会的意義」「組織にとってのメリット」「自分にとってのメリット」「緊急性」などを説明することで、リーダーからの命令ではなく「状況が自分に決断を求めているのだ」という感覚を持ってもらうことです。

あるいは指示ではなく十分に話し合うことで、リーダーさえ認識していなかった状況に気づいていくことが学習型組織なのだと考えます。
では、次のような職場の悩みにはどのように対応したらよいでしょうか。

 

事例 ▶ 当院では、長いこと新入職員は既卒新人ばかりでした。新人教育の必要性を強く感じることがなかったのですが、仕事の標準化が進み、上層部も既卒新人にも指導の必要性があると感じているようです。しかし、ベテランナースたちは「私は指導に向いていない」「特別に教えなくてもいつか覚えると思う」と反駁するなど「新人をチームで育てる」というところへたどり着きません。

 

相手の主張をいったん受け止める

 

「私は人に指導することが好きではない」といった意見が出てきた時、これを否定することはできないと感じます。実際に人は集団の力を活用することで組織に貢献できるタイプと、個人の働きを通して組織に貢献できるタイプに分かれることがわかっています。また経験を重ねることで、いずれある程度仕事が覚えられることも確かです。

 

そこで「個人的理由は持ち出さないで」とか「経験だけでは100%の学びにはならない」といきなり状況説明をし、強引に説得するのは対立の構造を進行させてしまうだけで得策ではありません。ここは「確かに指導を苦に感じない人と苦手と感じる人はいますね」「確かに経験を重ねることでいずれは一定レベルに達しますね」などと相手の主張にも一理あることを認められるよう、人を理解する多角的な軸を持って柔軟に向き合うことが大切です。

 

技能は後輩指導をすることで完成する

 

話し合いの場づくりができたところで、メンバーに「そもそも現在のプリセプターシップの目的は、長期的に優れた人材を獲得することである」との前提を確認することが重要な手続きです。その上で「指導をすることに向いている、向いていない」の議論はいったん脇に置き、「優れた人材獲得のためのトレーニングをどう組み立てるか」に話を戻すことが大切です。その上で、看護技術について指導をすることは看護技術を習得するためのトレーニング方法の一つであり、後輩指導をすることは私たちの看護技術のレベルアップをはかるプログラムであることを説明しましょう。

 

図1は米国国立訓練研究所によって開発された「ラーニング・ピラミッド」です。これらを参考資料として提示しながら、4つの視点で後輩指導の意義を読み取ります。
例えば話し合いを通して下記のような読み取り方ができたなら、状況は変化するのではないでしょうか。
○社会的意義:新人がミスをして泣くということは患者も何らかの不利益を受けることになる。それを未然に防ぐ、または最小の不利益にすることができる。
○組織的意義:指導者が新人の力不足を補うことで、病院は患者に看護の安定した質保障ができる。優れた人材を内部で育てることで、将来的に優れた看護サービスを継続して提供することにつながる。
○指導者にとっての意義:指導を通して曖昧にしていることが明確になるなど、エビデンスに基づいた看護の提供ができる時代が求める看護師になれる。
○緊急性:経験年数0年の看護師は、重大な事故を起こす確率が最も高い。少しも放置しておくことはできない。
グループ学習には時間がかかるでしょうが、幅広く多角的な理由をつかみとれます。また何より話し合いの成果に対する高いコミットメント力が生まれます。

 

質の保証のために叱る機会を少なくする

 

患者への責任に目を向ければ「特別に教えなくてもいつかは覚えると思う」などとは言えないことに気がつきますが、一方で「叱るなというけれど患者への迷惑を考えたら……」と叱ることの必要性を主張するメンバーも多いものです。ただし、叱ることが質の管理とどうつながるのかを冷静に話し合う必要があります。まず「どのような時に叱るのか?」を洗い出すことをメンバーに働きかけてみましょう。

 

①事前学習をしてこなかった、②仕事の手順が抜けている、③報告をしてこない、④相談せずに進めた、などこれらの事実をエラーが起こった時間軸で眺めると、①を除き仕事の悪い結果が出ているのではないでしょうか。それでは叱っても看護サービスの質の保障にはつながらなかったことになります。そこでテーマの論点を、「叱らない」ではなく「叱る機会を少なくする」に変えてみてはいかがでしょうか。そのような時にも資料の提示をしておくとよいですね。図2のような資料はこのような話し合いには効果的です。(続く)

 

 

 

[著者]永井 則子(有限会社ビジネスブレーン代表取締役)