「ただ待つばかりの人たちではないのだ」

文:吉野淑代

(INR日本版 2012年春号, p.108に掲載)

 

1996年5月、日本での看護師生活にピリオドを打ち、韓国へ来て15年の歳月が過ぎました。

 

こちらの生活の中でいろいろな出来事がありましたが、とくに猛勉強の末に韓国の看護師免許を取り、韓国の病院で働き始めたことは自分にとって大きな第一歩でした。今は看護師の資格に加え、韓国内で医療通訳士、病院コーディネーターなどの資格を活かしながら、産婦人科病棟の看護師として勤務しています。

 

日々の暮らしの中で、この国の文化や習慣、言葉などに数多く出会い、さまざまな面で日韓両国の違いを感じてきました。

 

看護師としては臨床面の他、政策や制度についても大きな違いを知りましたが、なかでも2011年4月に、看護教育4年制一元化のための高等教育法改正案が国会本会議で通過したことは、韓国看護界の歴史的な大事件でした。この2012年からは、看護専門大学(3年制)33校が、順次3年制から4年制の大学に移行していく予定です。

 

韓国は今まで、看護教育が3年制と4年制に二極化しており、1979年から看護教育の4年制を政府に訴え続けてきた歴史があります。2003年には国内の署名運動で35万5,670人から看護教育4年制一元化の支持を受け、2010年の看護政策宣布式では、全国から6,000人あまりの看護師や看護大学生が集う盛大な式典を行っています。

 

2011年10月の看護師全国大会では29万人の看護師と6万人の看護大学生が集い、看護教育4年制一元化の実現を、共に喜び合いました。このように多くの国民や看護師、看護学生が高い関心を持ってきました。

 

また、2010年6月の全国同時地方選挙では、看護師39名が出馬して18名が当選するなど、自らの手で政治を担っていこうとする韓国の看護師の力強さを感じさせられました。

 

毎日の生活の中では、日本人とは違う、韓国人の感情の激しさやはっきりとした喜怒哀楽について行くのが、最初は大変でした。しかし、必ず達成しなければならない課題や思い、願いなどがあると多くの人が集まり、強く訴えていく彼らの姿を見聞きすることが、次第に不思議ではなくなってきました。

 

誰かが何かをやってくれるのを、ただ待つばかりの人たちではないのです。私自身も数年前からずっと、この看護教育4年制の動きがどうなるのか関心を持ってきましたが、今は「とうとうやったか」という思いがしています。

 

臨床現場で韓国人の看護師とともに勤務していると、彼女たちは自分が何か言いたいことや改善してほしいことがあると、その意見が通るまでとにかく上司に言い続けてみるのです。自分が正しいと思ったことは他人の意見や行動に振り回されず、主張すべきことは我慢せず必ず言葉にします。声も大きく、堂々とした力強さを感じることが多くあります。

 

大韓看護協会の徽章キャンペーンで発行される、「RN」と刺繍されたエンブレムを胸に付けたスタッフが勤務する姿も、今では自然な光景として映ります。臨床実習に来る学生も学生用のエンブレムを胸に貼り、「RN」と書かれた髪留めで髪をまとめるなど、仲間同士の一体感や帰属感、看護師であるという自覚などを感じ、患者や家族からの信頼を得られる機会になっています。このような団結力も、この国の看護師たちの特徴です。

 

看護教育の4年制一元化は、世界的に見ても大きな流れです。海外での勤務を希望する看護師にとっては、学士学位は必須。国際的な競争力を高めることや国際的に認められる人材を養成する上で「韓国の看護教育は世界を率いるリーダーを養成することができるものだ」とも言われています。国内だけでなく視野が世界にあることや、世界をリードしていこうと考えることころが、韓国らしい感じがします。そんな意気込みをこのように断言するところは、とても気持ちいいものです。

 

シン・キョンリム前大韓看護協会長の、強力なリーダーシップの下で推し進められた韓国の看護教育4年制一元化実現は、看護師や看護学生、そして国民の多くの関心と意識が導いたものだと思います。今、30年にも及ぶこの大きな課題が達成されました。今年2月にソン・ミョンスク新看護協会長が就任され、さらに前進する韓国の看護の新しい時代が始まろうとしています。

 


よしの・しずよ
東京都出身、96年よりソウル市で暮らす。日本、韓国の看護師免許取得。現在、産婦人科病棟勤務のほか、医療通訳士としても活躍。



コラム「海外でくらす、はたらく。」(INR 155号)

“異邦人”看護師7人の日々を、誌面とWebで紹介