〈新連載〉実践に役立つ訪問看護の注目論文

〈新連載〉

 

第 1 回
認知症の家族介護者への心理的支援
山川 みやえ・繁信 和恵・関口 亮子

 

今月の注目論文
認知症が高齢者夫婦の夫婦関係、親密さ、セクシュアリティに与える影響:質的系統的文献検討

Holdsworth K, McCabe M.: The Impact of Dementia on Relationships, Intimacy, and Sexuality in Later Life Couples: An Integrative Qualitative Analysis of Existing Literature. Journal of Clinical Gerontology and Geriatrics, 41(1) : p.3-19, 2018. doi:10.1080/07317115.2017.1380102.

 

論文の要旨(研究結果の概要)
認知症の発症と進行は、夫婦関係に深刻な影響を与える。研究チームは、認知症が高齢者夫婦の夫婦関係、親密さに与える影響を調査した質的研究論文を系統的にレビューした。対象論文は2016年5月に行ったWeb of Science、PsycINFO、MEDLINE、Scopus、CINAHLの5つのデータベース検索より、13の関連研究を特定した。分析結果として浮かび上がったテーマは以下のとおりである。

 

1.責任と役割の変化:認知症の進行により、夫婦間の責任分担が大きく変わる。
2.アイデンティティと自尊心の問題:認知症は個人のアイデンティティや自尊心に深刻な影響を与える。
3.愛情や献身、相互性の変化:夫婦関係の基盤をなす愛情や献身、関わり合いが、認知症の進行によって揺るがされる。
4.夫婦関係の変化:認知症の進行に伴い、夫婦関係そのものが変わることが多い。

 

本レビューにより、認知症は夫婦関係に大きな影響を与えることが明らかになった。しかし、認知症を持つ本人や夫婦共同の視点を含む研究が依然として不足しているため、将来的には配偶者、認知症を持つ本人、および夫婦共同の視点からさらなる研究が必要である。認知症が夫婦関係にもたらす影響は深刻であり、臨床的には個別のニーズに応じた支援が不可欠である。夫婦が直面する親密さや関係性の変化に的確に対処するため、個別性を踏まえた情報とサポートを提供することが重要である。

 

研究者の視点(山川・繁信)

家族介護者に見られる「高EE」

 

2015年の認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)および2019年の認知症施策推進大綱の策定によって、認知症を持つ人へのケアは社会的に広く認識されるようになりました。また、地域包括ケアシステムが推進される中で、認知症を持つ人が「その人らしく」生活するために、早期発見・早期対応も含めてさまざまな支援や取り組みが行われています。

 

一方で家族介護者も、配偶者や親などが認知症になったことで精神的ショックを受けたり、将来に不安を感じたりするなど非常に高いストレスを抱えています。しかし、家庭内での介護の様子を訪問看護師などのケア提供者が詳細に把握するのは困難なことから、家族介護者への心理的支援は十分とは言えない状況にあります。

 

家族介護者の中には、家族会などのインフォーマルなサポートを利用せず、「自分1人で介護を頑張らなければならない」と抱え込む人も多く見られます。また、同居していない家族介護者であっても、同居介護者に介護や意思決定を任せる後ろめたさや、介護の日常が見えないことへの心配や不安を感じることがあります。これらのさまざまなストレスが原因となり、「高EE(High Expressed Emotion)」につながる場合があります1)。

 

高EEとは、過度な感情表現や批判、敵意などが表出される家族環境のことで、この環境下では認知症を持つ本人がストレスを感じやすくなり、認知症の進行を加速させる要因になります。家族の感情表出自体は悪いことではありませんが、感情的になりすぎると周囲との人間関係が悪化することから、ケア提供者も感情をぶつけられやすくなり、チームケアが停滞する恐れがあります。

 

認知症ケアの研究分野では、高EEを判定するための面接法や質問紙も開発されています2)。また、家族介護者の負担軽減には一般的にレスパイトケアが勧められていますが、今回の論文(質的研究の系統的文献レビュー)で取り上げられた文献では、高EEの家族では休息をとることがかえって不安を増強させてしまうため効果がないことが、当事者らの語りから明らかになっています。

 

→続きは本誌で(看護2024年11月号)