【SPECIAL INTERVIEW】新人・後輩のアセスメント力を育む指導



「今、目の前にいる
患者さんに何ができるか、看護師の思考過程を回し続けることです」

 

 

阿部 幸恵さん

 

臨床での指導書『新人・後輩のアセスメント力を育む指導』を上梓した阿部幸恵さんに、本書のねらいについて伺いました。

 

——本書の企画の発端は何だったのでしょう?

2022年に「新人の看護実践力を伸ばす指導」をテーマに研修を行った際(主催:日本看護協会出版会)、受講生からたくさんのご質問をいただきました。その内容は、指導の留意点、思考力を伸ばす方法、OJTの具体的な進め方などが多く、既刊書籍で述べてきたことが現場で使える知識になっていないと感じました。また、指導者には「新人・後輩を自分が考えた通りに一律に育てたい」という思いが根強いのですが、今は一人ひとりの能力や状態に合わせて育てていく時代です。その点を改めてお伝えする必要があると思いました。また、薄井坦子先生の『何がなぜ看護の情報なのか』(1992年,日本看護協会出版会)が今でも看護基礎教育で活用されていることを知り、思考力やアセスメント力を伸ばすだけでなく、その元となる「看護(を行うため)の情報」について、一度しっかりまとめたい、との思いから執筆を始めました。

 

――「看護の情報」と「アセスメント」はどのように関連するのでしょうか?
アセスメントとは、「看護の情報」を収集して、今、目の前にいる患者さんが「看護的に」どういう状況なのかを判断することです。ですから本書第1章では、看護の対象である「人」をとらえる視点について詳しく述べました。臨床では「タスク(行うべき業務)」に焦点が当たりがちですが、どんな人にどんな看護を提供するかが重要です。そのために必要なのが看護師の思考過程、つまり「看護過程」です。現状では、アセスメントを飛び越して、問題があやふやなまま、プラン(その日にすべきこと)にとらわれているように見えます。看護過程ではアセスメントが最も重要ですから、指導に当たる先輩は、新人や後輩に「この人はどういう人?」と問う必要があります。もし、そのような習慣がないなら、本書で紹介している「実践型看護過程」に沿って、繰り返し、看護師の思考過程を回すことです。業務中に交わす会話の中で、意図的に、看護診断・OP・TP・EPなどの用語を使うことも有効でしょう。

 

――第2章では、「指導の心得:7か条」と、人の「思考」についてまとめられています。
心得はどれも重要ですが、「⑤新人や後輩の能力と、育ちにかかる時間は、一律ではないと心得る」を特にお伝えしたいです。「○年目だからこれくらいできて当然」「○年目にはひとり立ち」という考えは捨ててください。これは先輩同士にも言えることで、一人ひとりの看護師の成長をチーム全体で確認し合う必要があります。「⑥2年目以降の後輩指導は、新人指導より重要と心得る」も同様です。配置病棟の業務をこなすことではなく、看護師としてどのように成長していくかに経験年数は関係ありません。1年目には当然手をかけますが、2年目以降も、ずっと心をかけ続けてください。
また、認知的側面について解説したのは、「思考」の中身を分解すれば、指導方法がより具体的になると思ったからです。溝上慎一先生の示された「認知的な情報処理プロセス」の図で、一番重要なのは「入力」部分です。「看護の情報」を得られなければ、いくらその先の情報処理プロセスが働いても、出力内容は乏しくなるでしょう。ナイチンゲールも「観察」の重要性を繰り返し説いていますが、現場では「入力」部分の力を育てているでしょうか? 「新人・後輩は何も考えていない」という声も聞きますが、そもそも情報に気づかないのか、知識がないから考えが深まらないのか、言葉としてまとめる力がないのか、どの部分で問題が起きているのかを見極めて支援しなければなりません。知識、つまり記憶は常に薄れていきますから、専門家であれば絶えず勉強が必要です。もちろんこれは、先輩ナース自身にも言えます。

 

――「実践型看護過程」に沿った具体的な指導のパートは、どのように読めばよいでしょうか?
患者情報や各種臨床データを載せていますので、自分がこの患者さんを受け持つとしたら、各フェーズでどんなアプローチをするかなと、一度考えてみてください。この場面ではここを観察する、この情報が特に大事だ、一緒に担当する新人のどこをサポートしようか、と想像してから、イラストで示した指導例を読み進めてほしいですね。自分の日頃のかかわりとの違いを見つけたり、言い回しを参考にしたりするのもいいでしょう。疾患に関連した知識にも触れていますので、おさらいをして、さらに知識を確実にしてほしいです。
大切なのは、指導に当たる先輩自身が、確かな看護観をもって学び続けることです。そして、ケースカンファレンスの充実が欠かせません。知識だけを問うたり、詰問したりするのではなく、「この患者さんがよい状態で元の生活に戻るために、私たちは何を学ぶ必要があるのか、今日の看護では何をしようか」というマインドを全員がもつと、カンファレンスが楽しくなります。重要な観察項目を挙げたり、環境整備について話し合ったりするのもいいでしょう。どの患者さんにも、看護としてできることが必ずあるはずです。
そのような専門職としての姿勢の基盤になるのが、看護理論家の言葉です。理論家たちは、よい理論をつくることが目的ではなく、看護の現場をよくしたい、看護独自の専門性を発揮したいという思いで理論を構築したと思うのです。本書でもたくさんの輝く言葉を紹介していますから、関心をもって心に留めて、後輩たちと看護の素晴らしさを味わってもらいたいと思います。

 

新刊案内

『新人・後輩のアセスメント力を育む指導―看護師の思考を刺激するOJT』

阿部幸恵 編著

 

CONTENTS

第1章:看護師が行う情報収集とアセスメント/第2章:新人・後輩を指導する前に知っておきたいこと/第3章:「実践型看護過程」に沿ったOJTでの指導例/第4章:新人・後輩のアセスメント力を育む指導と管理 ほか

 

DATA

B5判192頁
定価3,080円(本体2,800円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2758-9
日本看護協会出版会(Tel.0436-23-3271)

 

看護2024年2月号より

 

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