急性期病院は高齢者を“ひとりの人”として捉えることが難しいくらいに多忙です。しかし、「パーソン・センタード・ケア」の考え方に基づいた看護を展開すれば、高齢者本人・家族、そしてナース自身が満足する看護を提供できるのです。本書では、そのような看護を実践するために、「情報収集→アセスメント→看護問題→看護計画→評価」の流れで捉える8事例の「アセスメントフロー」を提示します。このフローを応用することで、あなたの“看護”が変わります!
パーソン・センタード・ケア(以下:PCC)は「年齢や健康状態にかかわらず、全ての人々に価値があることを認めて尊重し、1人ひとりの個性に応じた取り組みを行い、その人の視点を重視する“人間関係の重要性”を強調したケア」で、英国の臨床心理学者であるトム・キットウッドが提唱しました。
キットウッドが提唱したPCCは、認知症に着目した理念ですが、多くの人が加齢にともなって認知機能が低下傾向にあるため、高齢者のケア全般において活用できる考え方です。
本書の編者である鈴木みずえさんは、急性期の病院では短期間での有効な治療効果が優先されるあまりに、個別的なケアではなく標準的なケアが推奨されている状況を指摘した上で、「高齢者を“ひとりの人”として捉え、その人の人生の豊かさや現在の心身機能の状況を統合してPCCに基づく看護(以下:PCC看護)を急性期病院で展開することは、単に高齢者看護実践の質向上だけではなく、医療全体の質向上につながる」と述べています。
本書では、PCC看護を実践するために「5つのstepによるアセスメントフロー」の活用を提唱しています。まず、第1~3章においては、PCCについて深く掘り下げていきます。
第1章「パーセン・センタード・ケアを基盤とした高齢者看護過程」では、PCCとは何か、アセスメントフローで特に重要になる「情報」「アセスメント」の考え方、「多職種連携」の大切さなど基本を解説。
第2章「治療・緩和ケアにおけるパーソン・センタード・ケアの捉え方」では、2人の医師が「高齢者の“想い”を聴くプロセス」「緩和ケアにおけるACP」について述べます。
第3章「高齢者看護過程におけるアセスメントフローの活用」では、PCC看護の実践をより具体化するためのアセスメントフローと心身のアセスメントについて解説。
第4章「アセスメントフローを活用した高齢者看護の実際」は、本書の中核となる8つの実践報告です。見開き2ページで事例の「アセスメントフロー」(下図)を提示し、ここで“流れ”をつかんだ後に、それぞれのstepを詳細に報告します。8つの事例は、
①酸素治療を拒否するアルツハイマー型認知症の高齢者
②意識消失で救急搬送後、せん妄状態になった高齢者
③大腿骨頸部骨折術後の歩行障害・バランス障害のある高齢者
④大動脈弁狭窄症の術後に認知機能が悪化した高齢者
⑤脳血管障害後に無気力状態になった高齢者
⑥酸素マスクを外してしまう急性呼吸不全の高齢者
⑦前頭葉機能低下のある摂食困難高齢者における食支援
⑧認知症のある高齢がん患者の意思決定支援
で、それぞれ個別的・具体的な事例ですが、PCC看護としての共通点があることがわかります。
すべての事例が「急性期」の病院で行われており、なぜ、それが可能なのかを読み解くことで、あらゆる急性期病院でPCC看護の実践が可能となるはずです。
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第5章「パーソン・センタード・ケアに基づく退院支援・地域連携」では、退院後に重要となる病院と地域の連携をPCCに基づいて整理しています。
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本書のもう1人の編者である金盛琢也さんは「高齢者を疾患名ではなく“ひとりの人”として捉え、本人のニーズを踏まえて看護実践していくことは、入院中の高齢者の治療や安全確保の効率化においても有用」と指摘します。
本書で報告されているPCC看護を、自分でできることから、できるときに少しでもよいのでチャレンジしてみましょう。患者・家族の想いに共感した看護をすることで笑顔が生まれ、その笑顔がナースも力づけるはずです。PCCの考え方で、よりよい看護に向けて一歩前に踏み出してみませんか?
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アセスメントフローで学ぶ
パーソン・センタード・ケアに基づく急性期病院の高齢者看護
●B5判/232ページ
●定価3300円
(本体3000円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2344-4
日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)
看護2021年9月号より