「『爪のケア』に関する刑事事件」では、当該看護師の行為が適切なケアだったにもかかわらず、マスコミからは「爪はがし」などの報道が相次いだ。
このため、日本看護協会では看護ケアだったとの判断の上で、ニュースリリースや談話を発表。報道関係者ヘの送付や公式ホームページでの公開などの幅広い発信を行い、看護に対する社会的信用の失墜の回避に努めた。
1 当初の報道と見解の公表
爪のケア行為が公表された2007年6月25日のA病院の記者会見後や、7月2日の当該看護師の逮捕後の報道では、「爪はがし」「虐待」「心の闇」などのセンセーシヨナルな見出しが新聞紙上を躍った。
これに対して本会では、関係者や法律の専門家、看護の有識者からの情報を分析・検討。当該看護師の行為は虐待ではなく自らの看護実践に基づく看護であると判断し、10月4日にニュースリリース阿ヒ九州市『認知症高齢者の爪はがし事件』に関する日本看護協会の見解」を発行した。
見解では、①虐待ではなく看護実践から得た経験知にもとづく看護ケアである②爪のケアの重要性と看護実践についてーの 2点を解説し、「看護専門職能団体の社会的責務として、この事件が誤った方向で審理されないように裁判の行方を注意深く見守るとともに、国民と看護職に与えた衝撃の大きさに鑑み、ここに本会の見解を表明いたします」として、発表の趣旨を示した。この結果、当初の「虐待」一辺倒の報道には一定の歯止めが掛かることになった。
10月27日には、福岡県看護協会主催の会員向け研修「フットケアフォーラム」の終了後に記者懇談会を実施し、地元マスコミへの対応を進めた。フォーラムに関する記事では、「逮捕を恐れて現場が萎縮し、フットケアが後退するのではないか」といった現場の声も紹介された。
2 一審判決後の談話
見解の発表後、新聞やテレビなどの取材依頼が続いたが、福岡地裁小倉支部での一審公判が始まった2008年 10月以降は、裁判ヘの影響を考慮して、取材対応は見解を示すにとどめた。
2009年3 月 30 日、一審判決の有罪判決を受け、本会は医療安全を担当する永池京子常任理事(当時)名で「この判決によって、臨床現場でケアが萎縮しないか危倶します」との談話を公表した。判決後の報道は、有罪だったことから「爪はがし」などの表現は続いたものの、「フットケアの範囲は広く認定」との見出しで、看護ケアの視点からの報道も見られた。
3 控訴審後の談話
福岡高裁での控訴審中も引き続き、取材対応は自粛した。無罪判決となった、 2010年9 月の判決後には、本会の久常節子会長(当時)名での以下の談話を発表した。「無罪判決を聞き、安堵しています。フットケアに従事する看護職には、療養生活を支える専門家として、引き続き、高齢者の QOLを高めるケアをお願いいたしたいと思います」。
報道については、新聞やテレビなどで逆転無罪が大きく取り上げられた。爪のケアが正当な行為と認められたことで、見出しの表現も「爪はがし」との文字が姿を消し、「つめ切り」「つめ切除」に改められた。
さらに、無罪確定後には、地元紙で一連の報道を検証する特集が掲載された。特集では、初期の報道姿勢や捜査側に比重が置かれた取材について振り返り、当該看護師のインタビューも掲載した。
★本書の内容を一部公開しています★
↓ ↓
◯第1章:解説編
日本看護協会の活動と見解:職能団体としての役割と支援の実際から(日本看護協会常任理事 福井トシ子) 「『爪のケア』に関する刑事事件」の事件報道と日本看護協会の広報活動(日本看護協会 広報部)
◯第2章:資料編
資料2「『爪のケア』に関する刑事事件」の支援報告について
おわりに(前日本看護協会事業開発部部長/新潟県立看護大学教授 坪倉繁美)