『「爪のケア」に関する刑事事件ー経緯と支援の実際ー』内容紹介(その4)

おわりに
(前日本看護協会事業開発部部長/新潟県立看護大学教授 坪倉繁美)

 

「爪ケア」は傷害ではなく看護ケアであることが認められ、「『爪のケア』に関する刑事事件」は無罪であるという結果に落着した。逮捕・起訴・一審・有罪・控訴審・無罪に至る3年余りのプロセスには、弁護士の方々のご尽力をはじめ、関係者や支援団体等の理解的支援があった。この事件の推移を見守ってきた立場として、本当によかったと安心している。

 

判決では、「多少なりとも不適切さを指摘されてもやむを得ない側面もあるが、これらの事情を踏まえても、被告人の行為は、着護目的でなされ、看護行為として、必要性があり、手段、方法も相当といえる範囲を逸脱するものとはいえず、正当業務行為として、違法性が阻却されるというべきである。」として傷害罪が成立しないとされた。

 

この判決は、今後において看護行為の違法性を論じる基礎となるべき判例となり、「看護行為の正当業務行為性の判断枠組み」が示されたことになった。看護している間には、不測の事態としての出血や痛みが伴うことがある。看護の目的や方法が看護を受ける患者・家族や同僚に正しく認識されず、手法も共有されていない場合は、正当な着護行為であっても一転して虐待と誤って認識されるのだという怖さを味わった。

 

正当な爪ケアであったにも関わらず、看護師が生爪をはいだという報道に始まり、社会は驚き、看護職は爪ケアなどを行うことに萎縮してしまった。特に一審で有罪になったことを契機にして、臨床現場では爪ケアをはじめ、出血を伴う口腔ケアや苦痛を伴うケアはできない、あるいは慎重にならざるを得ないという思いが連鎖的に生じた。必要な看護ができなくなる、看護に対する社会的信用も失いかねない、いわば看護の危機であるとも感じた。

 

もちろん被告の立場にあった当該看護師とその家族は著しく名誉を傷つけられ、苦痛も強いられたと聞いている。この事件によってあらゆる立場で震え、それぞれの立場で考えをめぐらした。

 

無罪として落着した今、この事件から多くのことを学ぶことができる。療養上の世話は、侵襲性は高くないと考えられ、日常的には、きまりきったルーチンワークでこなされ、看護行為についてのマニュアルや実践した結果を記す看護記録もなく、それぞれの看護行為毎に承諾書もとっていないのが現状であろう。これらの課題についても合理的に対応できるよう各施設で検討する必要がある。

 

また、控訴審の判決の主文で「被告人は無罪」と読み上げられた。理由は、そもそも事実誤認があったとされたのだ。起きたりスクをこのようにも裁判による決着に頼らなければならないほどのクライシス事案にしてしまった反省も含め、各施設においては、起きたりスクに対する対応のあり方についても検討しておかなければならないものであるということを痛切に感じた。

 

 

『「爪のケア」に関する刑事事件ー経緯と支援の実際ー』

目次/ご注文

 

★本書の内容を一部公開しています

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はじめに(日本看護協会常任理事  福井トシ子)

 

◯第1章:解説編

  • 日本看護協会の活動と見解:職能団体としての役割と支援の実際から(日本看護協会常任理事 福井トシ子)
  • 「『爪のケア』に関する刑事事件」の事件報道と日本看護協会の広報活動(日本看護協会 広報部)
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    ◯第2章:資料編

  • 資料2「『爪のケア』に関する刑事事件」の支援報告について
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    おわりに(前日本看護協会事業開発部部長/新潟県立看護大学教授 坪倉繁美)


     

    「爪のケア事件」とは何だったのか。