福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。
「世話すること・されること」の価値を実感できる社会に
文:上野まり
「認知症事故 家族責任なし」。2016年3月2日の読売新聞朝刊の一面の見出しが目に入りました。2007年に徘徊中の91歳(当時)男性が列車にはねられた事故をめぐり、最高裁の判決が下されたのです。監督義務者とされていた当時80代で要介護1の妻と別居の長男に対する1審、2審の賠償命令は棄却されました。この判決が出るまで、認知症者にかかわる人々の意見が新聞などにも取り上げられ、認知症者の家族の逆転勝訴という結果に対して、世間はおおむね妥当と落ち着いたように思います。
厚生労働省の「新オレンジプラン」によると、認知症高齢者は2012年時点で約462万人ですが、2025年には約700万人に増加すると予想され、65歳以上の5人に1人が認知症となる時代を迎えます。また、高齢者の家族構成は、年々、独居または高齢者のみの夫婦の割合が高くなっており、“老老介護”“認認介護”の世帯が増えています。今回の事故でも妻自身が要介護1でありながら、認知症の夫を日々介護し、うたた寝した隙に男性が外に出て、事故に遭ってしまったようです。男性はJR東海に損害を与えましたが、自身も亡くなったという事実に多くの同情が集まりました。一方で、認知症者が他者に危害を加えた場合は、監督義務者が責任を問われるべきという指摘もあり、賠償責任保険制度の充実が今後の課題でしょう。
同紙面で、元最高検察庁検事の堀田力氏はこう述べています。「認知症の人が増えたのは、『みんなで支え合うやさしい社会を作りなさい』という神様からのメッセージ」