総務省の通信利用動向調査によれば、2013年末には携帯電話に占めるスマートフォン(スマホ)の割合は約60%になりました。「スマホを電話やLINEなどプライベートで使うだけではもったいない。インターネット上のクラウドサービスを利用して看護の現場を快適にしましょう!」というさまざまなアイデアに溢れた『あなたのスマホ 看護に役立ちます!』を執筆した前田樹海さんに本書のあれこれをうかがいました。
――マックパソコンを過去16台買い換え、WEBとITに精通した前田さんならではの企画ですね!
いや、実は私のアイデアではなく、本書の編集者である青野さんが、2013年冬のある日、私の研究室にふらっと現れて「前田さん、スマホでレポートや論文って書けるものなんですか?」と聞かれたので、「可能ですけど、PCで書いたほうが早いですよ。いつでもどこでもスマホで書き物の修正はできますけどね」と答えたことがきっかけなんです。
そこから2人で議論してアイデアがふくらみ、「じゃあスマホで看護の仕事にかかわるこんなこと・あんなことができますよ! というアイデア集、提案本をつくりましょう」という本書のコンセプトができあがったわけです。
――なるほど。スマホ上でアプリサービスを使うためには、クラウドを理解しておく必要があると本書に書かれています。「クラウドって何? それっておいしいの?」と思う方も多いと思いますが……。
食べられるわけではないですが、クラウドは使うとおいしいというか、大変便利ですよ。クラウド(cloud)は英語で雲のこと。要は「自分でデータを持たず、ネット上に保持しておくこと」なんです。ネットの広大な青空の中に、自分がアクセスできる雲をつくり、そこに情報を置いておくようなイメージですね。自分のクラウドから情報を取り出したいときには、鍵(ID やパスワード)さえあればOKです。
自宅のPCでも、仕事場のPCでも、スマホでもタブレットでも、どこからでも同じデータにアクセスして、内容を閲覧したり更新したりできます。例えばカレンダーで言えば、出先で新たな予定が決まれば、その場でスマホを使って予定を入力。それがクラウド上のカレンダーであれば、自宅のPC にも、新たに加えた予定が反映されているわけです。
――情報更新が一元化されるということですね。
それだけじゃありません。自分がつくったクラウドの一部に、仲間もアクセスしていいよという権限を与えれば、そのクラウドはみんなが同じ最新情報をいつでもどこでもスマホやPC、タブレットなどいろいろな端末で共有できる場となります。
クラウドは個人的な利用のみならず、共同作業の場としても活用できるわけです。
――共同作業をするためには情報共有は不可欠ですよね。クラウドの利便性がわかりました。ところで本書では、クラウドサービスを使った8つのアプリについて詳しい解説があり、看護の仕事に使える提案もされていますね。
特におすすめなのが、Facebook・Dropbox・Evernote・Hangoutsという私にとっての「アプリ四天王」です。スマホのアプリを使いこなしている方にとっては有名なアプリだと思いますが、これからという方はまずこの4つのアプリを使ってみてほしいです。
電話やメールとは違った新たなコミュニケーションをもたらすFacebook。クラウド上に保存領域を広げ、文書の保管などのやりとりを簡単にするDropbox。写真や伝言などメモの新たな可能性を大きく広げるEvernote。瞬間コミュニケーションに威力絶大なHangouts。詳しい解説は本に譲りますが、これらのアプリを、積極的に仕事に役立てる使い方のアイデアをご紹介しています。
――本書は前田さんご自身で、DTP(PC上で本のレイアウトを組み上げ、印刷データとして完成させること)方式で執筆されていますが、これも看護書初の試みではないでしょうか?
レイアウトソフトのAdobe InDesign CCを駆使して書いてみました。敬愛する作家・京極夏彦氏の執筆スタイルを模倣してみたのですが、途中、自分でも「何でここまでやってるんだろう?」と思うときもありました。しかし、自分が頭で描いた世界をできるだけ忠実に表現したいという意味では、チャレンジしてよかったと思います。
――クラウドを利用した情報の共有、共同作業の究極の形として、本書の最後に「看護記録のビッグデータ化」を提唱されていますね。
看護記録が電子化されても、蓄積した看護記録のデータを二次利用するための仕組みが整っていません。個人情報保護法では第一条で「個人情報の有用性に配慮しつつ」と謳っているにもかかわらず、「個人情報を囲い込んで金庫の奥にしまっておくことが正しいのだ」という誤った認識が看護界に浸透しているように思います。
標準化された用語で看護記録をつけていれば、どんな患者に(看護診断名)、どんなケアをしたら(看護実践用語)、どんな結果になったか(看護成果用語)というビッグデータが蓄積されていきます。これらをあとから解析すれば、どんな患者にどういうケアが有効なのかという根拠に基づく看護実践に役立つエビデンスが得られる可能性が高いのです。
また、「有効とされるケアがこの病棟で行われていない理由はなぜ?」といった質の管理にも利用可能です。ただ記録をしておしまいで、臨床知が個々の看護師の頭の中に蓄積されていくだけなら、看護にとって電子カルテの意味はあまりないと言えるでしょう。本書では、看護の未来につながるIT目線の提言もしています。ぜひご一読ください!
-「看護」2015年3月号「SPECIAL INTERVIEW」より –
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