『家族看護を基盤とした在宅看護論 第3版(I概論編)』が刊行されました(「II 実践編」は11月中旬刊行予定)。
“新たな時代を切り拓く看護職の育成に向けて”と題して、監修者
★渡辺先生ご自身によるお話を、動画でもご覧になれます。
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文・渡辺裕子(家族ケア研究所長)
このたび、第3版の改訂を行いました、「家族看護を基盤とした在宅看護論」のご紹介を申し上げたいと思います。
本書は、2007年に第2版が刊行され、以来7年が経過しましたが、この間、人口の少子・高齢化は一層伸展し、現在我が国は、超高齢社会・人口急減社会を迎え、社会保障全般にわたる制度改革が押し進められています。地域包括ケアシステムの構築が重要な政策課題となり、療養者はもとより、家族や地域社会のニーズに応え、新たな時代を切り拓いていく看護職の育成が求められています。このような時代背景を受け、今回、本書は、全編に及ぶ大がかりな改訂を行いました。改訂に当たっては、在宅看護の実践経験が豊富でかつ、現在、基礎教育、および現任教育に当たっておられる4人の編集委員の先生方(上野まり先生、中村順子先生、炭谷靖子先生、本田彰子先生)との協議を重ねてまりました。
改めて改訂された本書の特徴をまとめてみますと、ひとつめは、タイトルにもありますように、「家族看護を基盤とした」在宅看護論のテキストであるという点です。直近の調査では、高齢者が高齢者を介護する「老老介護」は、50%を越え、家族の小規模化がいっそうすすむなか、病病介護、認認介護という事例も昨今、急激に増えてまいりました。
在宅看護において、療養者のみならず、ひとつの家族を看護するという考え方は必須の要素であると言えます。
また、特に在宅看護においては、医学モデルではなく、生活モデルの見方が重要となりますが、「学生に療養者の生活を理解させることが難しい」という教員の皆様のお声を多数伺ってきました。家族看護という考え方、視点を教授することによって、学生の方々に、より広がりと深みをもった療養者の生活の理解を促すことができると考えています。療養者は、どのような家族のなかで、どのような人々との関係性のなかで暮らし、今後、どのような人々との絆を大切にして、どのような生活を送りたいと願っているのか、療養者の生活を浮き彫りにするためにも、家族看護の考え方は、極めて有用であると考えています。
そして、2つめの特徴として「丁寧でかつ実践的、使いやすいテキスト」をあげることができます。本書は、初版から、「概論編」「実践編」の2部構成となっており、ひとつひとつの項目について断片的で不十分な理解に終わってしまうことのないよう、丁寧に記述することを大切に編集してまいりました。また、これに加えて、それぞれの分野で実践経験の豊かな先生にご執筆いただき、各章ごとに事例を用いて、読者の方々が在宅看護ならではの実践の知をより具体的にイメージできるよう、編集に務めました。そして特に今回の改訂では、編集委員の先生方に、各章ごとの編集責任をお願いし、内容に過不足はないか、理解しやすい記述であるかの検討をお願いしました。
また、今回の改訂では、第2版では実践編に掲載していた「在宅看護過程」の部分を概論編に移し、概論編で在宅看護のおおまかなイメージをつかみ、実践編では具体的な看護の実際を学べるよう、カリキュラムの流れに沿ったより使いやすいテキストの構成としました。
なお、改訂に当たり、過去10年間の看護師国家試験の出題内容を検討し、さらに平成26年版看護師国家試験出題基準に対応した内容となっています。
そして、本書の3つ目の特徴としては、「最新の情報と在宅看護の機能拡大に対応した内容」をあげることができます。
これは、今回の改訂のポイントでもありますが、概論編では、統計資料等は可能な限り最新のものを掲載し、発足した新たな施策について詳述いたしました。また、在宅看護の機能の拡大に伴い、外来通院中のがん治療中の療養者や疼痛管理を必要とする療養者に対する在宅看護へのニーズも高まっていることから、「がん治療中の療養者の理解」、及び「疼痛管理」の項目を加えました。そして、実践編の「療養者の日常生活上の援助」では、高齢者のみに焦点を当てていた記述を改め、より幅広い年齢層を対象とした内容としました。
さらには、地域包括ケアシステムの構築が進められるなか、在宅看護においても、個別支援の質の向上はもちろんのこと、個別支援を通じてネットワークをつくり、地域住民の支える力を引き出していくといった個から地域に及ぶ活動がより重要となります。こうした在宅看護に求められる機能の理解をより促すために、「地域ネットワーク」「多職種連携」「継続ケアシステム」等について詳し詳述しています。
このように、第3版は、初版からの特徴である「家族看護」の視点の充実・強化を図りつつ、今回の改訂では、地域包括ケアシステム時代という社会の大きな変化を基盤とし、より実践的で、対象の理解・援助方法ともに幅の広い内容を網羅するテキストとなりました。
施設内・外を問わず、どこで看護を提供しようとも、療養者・家族の、住み慣れた街での自分らしい、自分たちらしい生活の営みを支え続ける在宅看護の視点は、今後ますます重要かつ不可欠のものとなっていくでしょう。
本書を、在宅看護論のテキストとしてご活用いただき、将来の在宅看護を担う人材の育成に役立てていただけることを願っています。