CC2014年7月号掲載【高齢者の持てる力を生かし“支えられる人”から“支え合う人”へ那須塩原市の「街中サロンなじみ庵」—— 飯島惠子さん】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.31〉
【高齢者の持てる力を生かし“支えられる人”から“支え合う人”へ

那須塩原市の「街中サロンなじみ庵」—— 飯島惠子さん】

  

写真2

写真 ‌“賭けない、吸わない”の健康麻雀の様子

 

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)

今年の前半は『患者の目線――医療関係者が患者・家族になってわかったこと』(医学書院)の編集で大変でした。でも、19人の執筆者の皆さんの実体験ドキュメンタリーレポートが大好評でホッとしています。

 今日行ける場があって、今日すべき用事があって、見守ってくれる仲間がいれば、たとえ高齢でも認知症があっても、“支えられるだけの人”ではなく、“互いに支え合う人”になれる――そんな居場所「街中サロンなじみ庵」を実現した飯島惠子さんを訪ねました。

 

栃木県那須塩原市。西那須野駅にほど近いマンションの1階に、食堂と自由な集い場「街中サロンなじみ庵」(以下:なじみ庵)があります。ここは高齢者、認知症の人、主婦、子どもなど、誰もが安心して気軽に立ち寄れる場所。並びで借りた2つの空き店舗を使い、月〜金曜の9〜17時に開いています。祝日でも休みません。
なじみ庵を開設したのは、NPO法人ゆいの里代表の飯島さんです。なじみ庵は平均年齢78歳の会員と地域のボランティアが、“お互いさま”で老いを支えていく「“支えられる人”から“支え合う人”へ」をめざしています。那須塩原市に住む65歳以上のなじみ庵の会員が、互いに支え合っているのです。
なじみ庵の常勤スタッフは、主任コーディネーターの堀内陽子さんだけ。そして、母体であるNPO法人ゆいの里の看護師、社会福祉士、介護支援専門員がなじみ庵を助けています。

 

“きょういく”と“きょうよう”が大事

 

会員の皆さんは「年をとると、きょういくときょうようが大事」と言います。教育・教養ではありません。「今日、行く所がある」の“きょういく”と、「今日、用事がある」の“きょうよう”です。

会員の方たちにとっては“きょういく”のが、なじみ庵。ここにくれば“きょうよう”がたくさんある、ということなのです。
火曜日と金曜日に開かれる「転ばぬ先の知恵教室」「物忘れ知らず教室」は、80代、90代の会員のリードで、みんなでつくった「なじみ庵の歌」を歌い、「なじみ庵体操」で体を動かしてから始まります。
会員の自主グループ活動は、「歌声喫茶」「踊りを楽しむ会」「折り紙の会」「切り絵の会」「ハーモニカの会」など、さまざまです。
なじみ庵で提供するランチのために、野菜をつくって毎日運んでくる会員もいます。車の送り迎えがないと来ることができない会員のために、送迎車の運転を65歳から始めた男性会員たちは、皆、70代になりました。
送迎車でなじみ庵に着いた90代の会員たちは、朝からネギや芋の皮むきをしたり、ここから手押し車や杖を頼りに、自分の足で買い物や用足しに出かけたりしています。ランチ時の配膳や食器洗いも声をかけ合って、協力しながら会員たちでしています。
午後1時を過ぎると、のんびり、ぼちぼち、ゆるゆるのいつものなじみ庵。男性を中心に人気の健康麻雀は、参加者の最高齢が98歳です(写真)
昨年度のなじみ庵会員は125人。うち後期高齢者が66%、男性会員が約40%。年間の“来庵者”は延べ約1万4000人、そのうち高齢者が1万人を超えました。
気にかけて見守ってくれる仲間がいる。そんな環境で、1人ひとりが自分のできることを自分のペースで行うことで、自助の力が高まるのです。こうして、みんなが「“支えられる人”から“支え合う人”へ」の確実な一歩を踏み出しています。

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■街中サロンなじみ庵

2005年に「NPO法人ゆいの里」が立ち上げた“地域の人々の自由な集い場”。
NPO法人ゆいの里は、1996年、制度の枠を越えて地域を支える活動を那須塩原市で開始。1998年には“地域の居場所”「デイホーム ホットスペースゆい」を18坪の民家で開設。2000年の介護保険開始に当たって、デイホーム ホットスペースゆいは通所介護(定員6人)に移行し、同時期に「在宅介護支援サービスゆいの里」(居宅介護支援事業所)を開設。2001年、2階建て50坪の民家に移転(通所介護定員10人)。2002年には“街の中の縁側、時に駆け込み寺”の「ホームヘルパーステーションあったかいごや」を開設(2006年閉鎖)。2005年「街中サロンなじみ庵」をオープン。
■飯島 惠子さん(NPO法人ゆいの里 代表)
コミュニティケアマネジャー、コミュニティソーシャルワーカーとして、時代に先駆けて活動を続ける。保育所・知的障害者施設などでの勤務を経て、制度にとらわれず、制度の隙間で困っている人の居場所づくりに長年尽力してきた。1998年よりNPO法人ゆいの里代表。義父母・実父の介護の経験も長い。保育士、社会福祉士、認定ケアマネジャー(日本ケアマネジメント学会)の資格を持つ。
今回紹介する地域の人々の自由な集い場「街中サロンなじみ庵」を開設した。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2014年7月号)