★『認知症予防のための回想法』の共著者・梅本充子先生が、週刊文春 4月24日号(4/17発売)の伊藤隼也さんの連載:認知症予防「最新レッスン」で取材されました!
認知症予防のための
回想法
看護・介護に活かすアプローチ
「回想法」は、昔の思い出を語り合い、共感しながら心の安定をはかるケアです。脳の活性化につながることから、近年、介護予防や認知症の予防対策として注目され、高齢者ケア施設や地域の福祉団体主催のサロン活動において盛んに取り組まれるようになっています。長年、回想法を実践し、このたびその“コツとヒント”を著書『認知症予防のための回想法』にまとめた鈴木正典氏に、本書の特徴や効果的な活用法などについてうかがいました。
――はじめに、回想法に取り組み始めたきっかけと、その実践を通して感じられた効果についてお教えください。
私は、最初はホスピス研修で回想法を学び、緩和ケアとしての実践を始めたのですが、介護保険時代に入ってからは、高齢者対象の心理ケアやレクリエーションとしての実践を行っています。
高齢者への全般的な効果としては、他者との交流能力の向上、ご自身の人生の再評価ができることが挙げられます。加えて、“地域”でのグループ回想では、人々の暮らし・食文化・行事など民俗について再認識することができます。
最近、認知症は“地域”でケアする方向ですよね。地域や施設で働くスタッフも、回想法の実践を通して高齢者の人生をより深く学ぶと、その方に敬愛の念を抱きます。それがよい個別ケアにつながっていくことを感じることができます。
――本の中で「高齢者の長期記憶は素晴らしい“知的財産”である」と書かれています。年をとるにつれて物覚えが悪くなる一方で、若いころの記憶(長期記憶)が鮮明になることもあるのですね。
記憶については、短期・長期という時間軸の差だけではなく、質の違いにも注目します。 短期記憶は、改訂長谷川式簡易知能評価スケールのように、数字や名前などの単語で答えられるもの(閉じた回答)で、非情緒的な記憶です。
一方、長期記憶には、事実+情緒的修飾が加わり、昔話・苦労話・自慢話のようにストーリーがあり、“文学的”なのです。 短期記憶の例を「昨日降った雨水」と表現するならば、長期記憶の例は「森に降った雨が落ち葉をぬらして地下にしみ込んだ後、数十年経って山麓から湧き出した泉の水」と表現できます。後者はミネラルを含み、まろやかになっているわけです。悲しい、つらい思い出であっても、「だから今の自分がある」のように、語る方ご自身はその対処法を内心にお持ちなので、その思いを共感的・支持的に共有できるとよいでしょう。
――最後に、本書の内容構成の特徴と効果的な活用法についてお教えください。
本書は、主に介護予防・認知症予防を目的として、高齢者の方が「グループでの回想法」を実践する際にご活用いただけるガイドブックです。
これまでの18年間の実践から得た回想法の“コツとヒント”をまとめましたので、ぜひ、施設や地域で働く看護職の皆さんにご活用いただきたいと思っています。
第1部は導入部分になりますが、回想法の「意義」と「効果」、地域における回想法の生かし方などについて、わかりやすく解説しています。
第2部・第3部では、「グループでの回想法」を実践する上で大切な「コミュニケーションのコツ」と「運営のコツ」について、17のポイントを解説しています。
それぞれの解説の後には、“回想を促すきっかけ”として活用できる昭和30年代前後の写真を例示し、「回想のヒント(写真の絵解き)」も挿入していますので、実践の場におけるシナリオとして使っていただけます(写真)。写真の拡大版を別冊写真集に収載していますので、参加者の皆さんにそのままお見せいただけます。
また、「お話を広げるキーワード」として、懐かしい道具や言葉(例えば「メンコ」や「黄金バット」)、生活文化(「味噌づくり」や「嫁取り」の話など)について紹介しています。このような民俗学的なエッセンスが、本書の特色でもあるので、楽しくお読みいただき、高齢者とのコミュニケーションに役立てていただけるとうれしく存じます。
-「看護」2014年2月号「SPECIAL INTERVIEW」より –