佐藤美穂子 さん
(さとう・みほこ)
公益財団法人日本訪問看護財団
常務理事
1972年高知県立高知女子大学家政学部衛生看護学科卒業。同大学、東京白十字病院、日本看護協会、厚生省での勤務を経て、2001年より財団法人日本訪問看護振興財団(現・公益財団法人日本訪問看護財団)事務局次長。2002年より現職。
1993年の初版発行、1997年の新版へのリニューアルを経て、このたび第4版として改訂された本書。その監修・執筆者である日本訪問看護財団常務理事の佐藤美穂子さんに、改訂のねらいと主なポイント、さらにステーション管理者に求められる役割や訪問看護をめぐる今後の展望などについてうかがうとともに、ステーション開設にチャレンジする方々への応援メッセージをいただきました。
——今回の改訂のねらいと主なポイントについて教えていただけますか。
まず経営に関する内容を改めて刷新・増補するとともに、2021(令和3)年介護報酬改定に対応した内容を追加しています。例えば、訪問看護ステーションのICT活用におけるセキュリティ対策(第2章-8)として、厚生労働省「医療・介護事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(一部抜粋)」とともに、管理者が電子的な医療情報を取り扱う上での情報保護責任、SNS活用の管理者責任などについて述べ、訪問看護ステーションの業務継続計画(BCP)(第2章-9)では、新型コロナウイルス感染症および自然災害発生時における事業継続計画を策定様式に沿って具体的に示しています。また「評価」に関する項目では「科学的介護情報システム(LIFE)」の利活用(第4章-3)について述べています。
——あらためて今、ステーション管理者にはどのような役割が求められるでしょうか?
ステーションのサービス利用はかなり増えてきていますが、さらに訪問看護の利用価値をたくさんの人々に知っていただくことが重要な役割です。また、共に働くスタッフのモチベーションを高めながら、それらを達成していくことは管理者にとっての醍醐味ともいえます。
例えば本書の訪問看護の市場動向(第1章-2)の中で述べるプロモーション計画なども参考にしていただけるとよいと思います。利用者を増やすためにはサービスの内容と質が問われます。顧客満足度向上ももちろん必要ですが、これからはLIFEの評価項目なども踏まえて質評価を行い、その評価のフィードバックからPDCAサイクルを活用してステーション全体の質を高めたいものです。
訪問看護の報酬は、医療従事者のサービスであり訪問介護と比較されると高いです。だからこそ、その対価に見合うケアを実施しサービス担当者会議などを通して、効果的な訪問看護の活用などを納得していただく努力が管理者には必要と考えます。
——“2025年”さらに“2040年”に向けた訪問看護の展望をお聞かせください。
管理者は営業エリア全体を見渡して、競合よりも共存関係を模索し協力関係を築く必要があります。地域における訪問看護の役割、つまり地域包括ケアシステムにおける役割を描くこと、他のステーションと協力し、関係機関とも連携しながら「大丈夫」と言える体制をつくることが重要となります。
またステーションの事業所数やサービス内容には地域間格差が存在し、保健・医療・福祉・介護など関係機関や職種もさまざまです。ステーションは独立した事業所とはいえ、多くの専門職やボランティア、近隣の人々などの協力があって成り立っています。自分の地域で看護がどのような役割を求められるか、しっかりと検討を重ね、例えば介護予防や認知症の悪化予防、リハビリテーションなどの予防活動に注力することも1つの考え方です。
2040年に向けてわが国が多死社会へと進んでいく中、訪問看護には重度化し看取りの時期を迎える人々の思いに寄り添って、最期まで支援する役割があります。たとえ利用者が人生の最終段階にあっても、人として成熟のプロセスにあることを尊重し、ステーションのスタッフやケアチームのメンバーとともに協力して、QOD(クオリティ・オブ・デス)の向上を実現したいものです。
——最後に、これから訪問看護ステーション開設にチャレンジする方やすでに管理者として頑張っている方にメッセージをお願いします。
ステーションを運営・経営していくことで「人から頼りにされている」「自分が役に立っている存在」と実感できる幸せを感じられると思います。利用者の生活の場に入り、個別にかかわって看護を提供し、本人とともに、持てる力を見つけて、それを発揮できるように手助けするのが訪問看護であり、ナイチンゲールやヘンダーソンにも通ずる看護の原点であるといえます。
一方、訪問看護は訪問看護師の人間性も含めて看護そのものが丸ごと・直接評価され、対価が支払われるサービスです。利用者の居宅を療養環境としてさまざまな生活上の工夫を利用者と共に考え自ら実践できること、それらも含めて訪問看護ならではの魅力です。
また、今後、訪問看護にはより高度な看護実践も求められているため、認定看護師・専門看護師などの資格取得や特定行為研修の受講などスキルアップも必要でしょう。さらに在宅医療・看護はまだまだ発展途上にあり研究課題の宝庫です。多職種連携によるEBMなど、根拠に基づく看護の提供を推進するために、研究的な視点を持ってはいかがでしょう。
ところで、どんなによい看護を行いたいと理想に燃えても、経営がうまくいかなくなると、ステーションが休止・廃止に追い込まれてしまいます。そのようなことにならないように、健全な運営・経営を継続するためには、公的保険制度に基づく事業であることを忘れないで、本事業に真剣に取り組み、周囲から信頼を得ること、研修や専門的なアドバイスも受けて視野を広げることが必要です。
訪問看護の制度・報酬請求などについて不安な場合は、私たちがサポートしますので、本書の活用とともに当財団の電話・ホームページの相談窓口★をぜひご利用ください。改めて訪問看護の今日を担って下さっている管理者の皆さまに感謝を申し上げ、未来に向けてチャレンジする方にエールを送ります。
新版 訪問看護ステーション
開設・運営・評価マニュアル 第4版
公益財団法人
日本訪問看護財団 監修
●B5判 412ページ
●定価4,840円
(本体4,400円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2354-3
発行:
日本看護協会出版会 TEL:0436-23-3271
[主な内容]
序 章 訪問看護ステーションの現状と未来への展望
第1章 訪問看護ステーションを開設しよう
第2章 訪問看護サービスの提供を円滑に運営するために
第3章 訪問看護ステーションの安定した経営を行うために
第4章 訪問看護サービスの評価
第5章 訪問看護ステーションの実践事例