本書では、ヒトの身体機能や動き方の特徴から、福祉用具を解説しました。福祉用具を正しく効果的に使うことで、本人・家族・介護者の生活や人生を好転させることができます。地域包括ケアの現場で、必携の1冊です!
■「楽に動ける」をさらに深めて、改訂・改題
本書の『初版』は、弊社の雑誌・コミュニティケア臨時増刊号を書籍化して、『生活環境整備のための“福祉用具”の使い方』と題して、2010年に発行しました。『初版』は、総監修・窪田静さん(愛媛県立医療技術大学保健科学部看護学科准教授、健和会補助器具センター前所長)が、福祉用具支援の体系化と、先進的な現場での暗黙知の言語化により“福祉用具”の使い方を解説したユニークな書籍でした。『初版』は医療現場で好評をいただくとともに、看護やリハビリテーションの基礎教育のテキストとしても利用が広がっていきました。
このニーズの広がりを踏まえ、このたび、臨床現場と基礎教育の両方で活用できる『第2版』へと改訂を行いました。『初版』の基本コンセプト「楽に動ける」をさらに深めるとともに、地域包括ケアの現場で広く活用されるよう編集し、書名も『楽に動ける福祉用具の使い方 第2版 多職種協働による環境整備』と改題しました。
■多職種協働による編集・執筆
『第2版』の編集は、窪田静さん(『初版』総監修)に、栄健一郎さん(適寿リハビリテーション病院リハビリテーション部長)、樋口由美さん(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科教授)が加わり、臨床現場と教育現場、看護とリハビリテーション、病院と在宅など、多角的な視点で編集・改訂を進めました。
「ベッドや車いすなどの見慣れた福祉用具も、使い方を変えれば『暮らしを変える』力がある。高齢者や障がい者(児)、ケアにかかわる方々が福祉用具を正しく効果的に使いこなすことで、少しでも暮らしやすくなり、笑っている時間が増えてほしい」(窪田さん)、「利用者の生活や人生を好転させる手段として福祉用具を捉えるだけでなく、ヒトの身体機能や動き方の特徴から福祉用具を解説する本書の内容は、セラピストの思考性に正に即したもの」(樋口さん)、「単に福祉用具の種類を紹介するのではなく、『どんな人が、どんな福祉用具を、どのように使えば、どんな可能性が生まれるのか』を伝えたい」(栄さん)と、熱い思いで編集に当たってくださいました。また、執筆陣も看護師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、介護支援専門員と多職種にわたっていることが特徴です。
■基礎から実践・応用に向けた構成
「総論」は、福祉用具を国際生活機能分類(ICF)、労働衛生、二次障害予防などの多角的視点から捉えて解説しています。福祉用具の活用意義を理解することは、多職種協働の共通概念として連携促進の一助となるでしょう。
「各論」は、「臥位」「座位」「移乗」それぞれに、ヒトの身体機能とその動き方の特徴を「基礎知識」としておさえた上で、各福祉用具の種類・使い方の解説へと進め、理解が深まる構成としました。特に「移乗」は、「立位移乗」のプロセスを細分化して新たなカテゴリー「半起立移乗」を提唱。限定公開の「実演動画」も必見です。
福祉用具を効果的に使い、本人・家族・介護者の生活や人生を好転させるきっかけに、ぜひ、ご活用ください。
推薦のことば
日本赤十字看護大学名誉教授 川嶋みどり
自分の意志で起居動作が自由にできることは、健常時には至極当然であまり意識しないままに過ぎている。したがって福祉用具という言葉からの印象は、日常性からかけ離れた特殊な用語として受け止める向きも少なくない。とりわけ、限られた期間内で病人や手術前後の人を対象とする病院では、移送時のストレッチャーや車いすなどは馴染みがあっても、それ以外の用具についての関心は極めて薄い。看護に限ってみても、疾患や症状の看護に関する知識は豊富でも、障害(者・児)の看護についてはかなり遅れているのではないだろうか。だが、現代は超高齢社会である。加齢に伴って心身の不自由、活動の不活発が進み、動かないことによる全身の廃用症候群の弊害は、その人の人生のありようにも影響する。高齢社会とは、障害が普遍化する社会であるといってもよい。そこで、誰もが人間らしく自分らしく生きて暮らしたい思いを全うする上で、また、要支援・要介護者への長続きのする援助を実践する上で、障害の程度を問わず、日常性を維持・継続するための福祉用具の価値ははかりしれない。
本書は、福祉用具の種類や使い方の前に、まず、ヒトの身体機能と動き方の特徴を踏まえて、理に適った動作ができるための実に豊富なバリエーションが、わかりやすく述べられている。それは、9年前の初版以来、各職種が現場での実践と実証を経て精練された介助技術の到達点が、新たに整理されたことによるものである。例えば編者の言葉を借りれば、「『座位』の重要性を追認し、『移乗』を取り上げて、労働衛生の観点から運動学的に問題を列挙し、『立位』のプロセスを細分化して新たに『半起立移乗』を提唱」したとある。そのプロセスがチャレンジであったと聞けば、出版に至る著者らの活発な論議の様子さえ思い浮かべることができて、いっそうの親しみを感じた。編者の1人、看護師の窪田は、30年前に福祉用具の先進国デンマークに飛び出した。以来、福祉用具の普及にかけた執念にも近い思いが結実しつつあることを喜びたい。
福祉用具といえば、リフトのような大がかりな物を思い浮かべがちだが、摩擦軽減のためのスライディングシートや、各種ピローなど、それがあれば、ケアの受け手はもちろん、ケア提供者にとっても楽な方法は多彩である。だが、現在日本の医療機関で、こうした用具を日常ケアに生かしている施設は限られている。疾病構造の変化に伴って、高度急性期から慢性期、在宅へとシフトし、医療概念も治癒からQOLへと変わらざるを得ない時代である。理念やかけ声だけではなく、病気や障害の如何を問わず、「人間らしい普通の暮らし」を過ごせるようにするためにも、本書を手にとっていただきたい。
「どんな人に」「どの用具を使うことにより」「どんな可能性が生まれるか」をマスターすることはもちろん、その底に流れる編著者らの福祉用具の哲学を汲み取って、ぜひ実践につなげてほしいと願う。
楽に動ける福祉用具の使い方
第2版
多職種協働による環境整備
窪田静・栄健一郎・樋口由美
●B5判・176ページ
●定価(本体2,600円+税)
ISBN978-4-8180-2179-2
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)
主な内容
1章 総論
福祉用具活用の目的/国際生活機能分類(ICF)における福祉用具/福祉用具で介護者をまもる/福祉用具で本人をまもる/福祉用具支援の実際/福祉用具をめぐる制度
2章 臥位を支えて楽に動ける環境整備
臥位の基礎知識/ベッドと付属品/マットレス/ポジショニングピロー/摩擦軽減用具
3章 座位を支えて楽に動ける環境整備
座位の基礎知識/車いす/クッション/座り直し(姿勢矯正)
4章 楽に移れて、楽に動ける環境整備
移乗の基礎知識/立位移乗/座位移乗/リフト移乗
*「実演動画」限定公開
→看護2019年10月号より