本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。
井部俊子さんから川越博美さんへの手紙
命の絆をみる力
文:井部俊子
先月の往復書簡の執筆中にお母さまが亡くなられたということですね。お悔やみ申し上げます。あなたの手紙は卓越した訪問看護師のケアのドキュメントとして秀逸でした。
91歳のお母さまは広島から東京のあなたがたの家に来て、2年数カ月の生活だったそうですね。月に5泊のショートステイをプランし、要介護5の療養生活を全うされました。
訪問看護師が酸素吸入や吸引器を準備し、抗生剤投与のためにサーフローを留置し、汗ばんだ体を拭き、オムツを替え、爪が長く伸びることを気にしていたお母さまの爪をきれいに切り、立てないのにポータブルトイレに行こうとして転び打撲した傷を痛かったでしょうと手当てしてくれたという状況に、あなたは「看護はアートだ」と賛美していました。訪問看護師はお母さまの最期が近いことをあなたに知らせるために、吸引はもうやめよう、抗生物質もこれで終わりにしたらどうか、酸素も嫌がるようなら外してもよいという説明で伝えています。「家で穏やかに看取る」という偉業をなしとげ、「パリアンの看護師の看護力の高さを誇りに思う」と記しています。あなたの薫陶を受けた後輩の仕事ぶりを称えたいと私も思いました。看護を学び職業としたわれわれ娘の最大の功績は、自分の親を悔いなく看取ることだと、私は常々考えてきました。