西洋医学では力の及ばない疾患や症状に対する補完代替療法の効果が評価されるようになってきました。補完代替療法の1つ、アロマセラピーには、心身の緊張を緩ませ、癒しの効果があることが認められています。弊社刊『高齢者へのアロマセラピー』の著者、所澤いづみさんに、アロマセラピーを看護ケアに取り入れるメリットと効果、留意点についてお聞きしました。
――看護ケアにアロマセラピーを取り入れるメリットには、どのようなことがありますか?
アロマセラピーは、エステティック的なおしゃれな要素もありますが、看護師が行うのはメディカル的なアロマセラピーであり、患者さんの症状に働きかけていくものです。
アロマセラピーを用いた看護ケアは、大別すると2つに分かれます。1つは、精油の薬理作用を用いた、香りを嗅いで行う「芳香浴」です。もう1つは、ブレンドオイル(植物油と精油を混和したもの)をつくり、患者さんの身体に塗布してマッサージをする「アロマトリートメント(アロママッサージ)」です。どちらを選択するかは、そのときの患者さんの心身状態をアセスメントした上で決めます。
アロマセラピーは、週1回でも継続的に行うことで、患者さんに変化が現れて、何らかの効果が出てきます。患者さんは、つらい検査や治療により心身が緊張状態にあります。この緊張を、アロマセラピーの香りと施術で和らげることが可能です。その効果を最も感じるのは患者さん自身で、患者さんから「よくなったよ。ありがとう」という言葉をいただくことで、施術をした看護師自身もうれしい気持ちになり、癒されます。
また、優しさのあるアロマセラピーを看護ケアに取り入れることは、患者さんと看護師間の信頼関係の構築につながります。そして、患者さんのつらい症状にそっと寄り添いつつ、触れることができる看護師になります。筆者は看護師にアロマセラピーの指導をしていますが、回数を重ねるたびに、その看護師の感性が高まってきていることを感じます。それは、施術をしている看護師の手つきをみると、患者さんに優しく触れることができるようになっていると同時に、患者さんに集中していることが読み取れるからです。
――施術をする際の留意点はありますか?
まず知っておいていただきたいのは、アロママッサージをする際は、患者さんに対して、心を込めて気持ちよさを伝える施術ができないと、よい効果は現れないということです。患者さんは、ちょっとしたタッチの仕方で、施術をしている看護師自身の気持ちを瞬時に読み取ります。例えば、看護師に次の仕事があり、慌てていると、その手の動きから、看護師の気持ちが自分から離れていることを患者さんは察知します。
それから、アロママッサージを行う際に、対象者が病気の人と健康な人では、圧加減、力加減、スピードが全く違うということに留意していただきたいです。症状が重症であればあるほど、スピードはゆっくりにして、圧と力はあまりかけません。患者さんにかけるのは、心を込めた優しさです。これが最も重要な要素です。
一般的に、看護師が行うマッサージは強めです。例えば、便秘のときに腹部マッサージをする場合、便を出そうとして強くマッサージする傾向があります。しかし、強く腹部を押すことは、特に高齢者や痩せている患者さんには不適切です。強く働きかけることで緊張させてしまうため、逆効果になり、患者さんが腹部マッサージを嫌がることにもつながりかねません。これでは、腹部がさらに緊張状態になり、出ようとする便が出にくくなってしまいます。
――最近は医療チーム内に看護師の資格をもったアロマセラピストが入るケースも増えているようですね。
私は長年、看護師として勤務した後、プロのナースセラピスト(看護師のセラピスト)になりました。独立しアロマセラピーとリフレクソロジーの施術をして15年になります。施術の対象者の多くは終末期のがん患者さん(看取りまで)で、関節リウマチ、脳血管疾患、パーキンソン病、人工透析、循環器疾患、COPDなど、重症度が高い患者さんも多いので、医療チームの一員として、患者さんやご家族をサポートしています。
現在、病院・クリニック・訪問看護ステーション等でプロのナースセラピストが医療チームの一員として活動している施設が少しずつ増えています。中には筆者のように独立開業しているナースセラピストもいます。看護師の資格を有しているということで、医師も患者さんやご家族も安心して身体のことを任せられるということです。
――看護職へのメッセージをお願いします。
日々の忙しい業務の中で、アロマセラピーを看護ケアの中に取り入れるのは難しい、と思われる方は多いと思います。けれども、たとえ5〜10分だけのハンド・マッサージやフット・マッサージでも、心を込めた施術には効果があります。アロマセラピーを看護ケアのツールの1つとして用いて、患者さんの言葉・表情・動きから心身の状態を瞬時に把握してアセスメントを行い、患者さんに優しくそっと寄り添うことができる看護師になっていただきたいと思います。患者さんの尊厳を大切に考え、患者さんの痛みをわかろうとする優しさのある看護師が増えてくださることを願っています。
-「看護」2016年1月号「SPECIAL INTERVIEW」より –