CC2015年9月号掲載【患者中心の面談と対話技法 実践力を育む現場ベースの教育 その2】の紹介

〈コミュニティケア探訪・No.38〉
【患者中心の面談と対話技法 実践力を育む現場ベースの教育
イギリス・リーズ市郊外の日本人家庭医療専門医

――澤憲明さん その2】

 

文と写真・村上 紀美子(医療ジャーナリスト)
この連載がスタートしてから7年目。日本は九州から北海道まで、海外はイギリス、ドイツ、デンマークに香港と、コミュニティケアの現場の生き生きしたうねりや、尊敬する方々のチャレンジをご紹介できて幸せでした。最終回まであと1回です。
mkimiko@mbf.nifty.com

 

患者さんの全科診療の医療面と心理面、さらに家族関係・暮らし・仕事などの社会面も含めて全人的に、多職種チームで継続的にみていくのがイギリスの家庭医。その技や知恵は、日本の地域ケアにかかわる職種にも参考になりそうです。7月号に引き続き、澤憲明さんに話を聞きました。

 

実務密着マンツーマン教育

 

家庭医の現場実践能力は、どこでどのように育まれるのか? それは研修医のときの、臨床現場で実務に密着した指導医のマンツーマンによる教育の賜物。家庭医が専門教育で学ぶことの一端をみていきましょう。
●患者さんが話しやすい位置とは?
「患者中心の医療面接」は、イギリスの家庭医の間では1つの学問分野にまでなっています。例えば、医療者と患者さんが向き合う位置について、次のように気配りをします。
①‌患者さんに対して正面でも横でもなく、斜めの位置に座る(患者さんが話しやすい位置)
②‌座ったとき、目の高さが同じになる椅子の高さにする(見下ろすのでも、見上げるのでもなく、対等な位置)
③‌医療者が患者さんの仕草や動作をまねし、患者さんが共感を持ちやすくする(ミラーリング効果)
④‌電子カルテは、患者さんにも見える位置に設置する(情報を共有)
⑤‌医療者は白衣を着ない(威圧感、よそよそしい雰囲気を避ける)
⑥‌患者さんと医療者の椅子はなるべく同じものを使用する(対等な雰囲気で)
●診察場面を振り返りディスカッション
診療所での研修では研修医も患者さんを診察し、外来が終わるごとに、指導医と診察内容を振り返り、率直に話し合います。例えば、次のとおりです。
研修医「‌さっきの子どもの患者さんはちょっと喘息が悪化していたので、薬を出しました」
指導医「‌悪化した原因はなんだろうね? この子の母親は最近、仕事のストレスを感じてうつ病の薬を飲んでいますね。喘息の悪化について、この子や母親の思いは聞いてみた?」
研修医「あ、聞きませんでした……」
指導医「‌大丈夫、心配ないよ。でも次はあなたが聞きたいことだけではなく、患者さんがこちらに伝えたいことも聞いてみようね。いつも患者さんや家族の立場で考えることができたら、さらによいから」
温かくも厳しい指導。こうして、家庭医としてのアプローチが具体的に身についていくのです。

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■日本の家庭医療専門医教育と設定
日本プライマリ・ケア連合学会の主導により、家庭医療の専門医教育と認定が広がっている。同学会が認定する家庭医療専門医資格を取得するために必要な「家庭医療後期研修プログラム」は全国約160の施設で行われ、家庭医療専門医は全国に456人(2015年5月31日現在)。詳細は日本プライマリ・ケア連合学会HP参照。
http://www.primary-care.or.jp
■日英の家庭医の交流
日本プライマリ・ケア連合学会の国際キャリア支援委員会(委員長は福島県立医科大学教授の葛西龍樹さん。イギリスの家庭医療専門医である澤憲明さんもメンバーの1人)と、英国家庭医学会の若手国際委員会が窓口となっている日英の若い家庭医の交換留学プログラム。2013年から毎年5人ずつ留学し、日英の学び合いが広がっている。

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2015年9月号)