福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。
平成28年度診療報酬改定から感じた期待と不安
文:上野まり
4月に平成28年度診療報酬改定がありました。改定のたびにその動向が気になります。特に学生に教授する立場になると、正しい知識を得る必要性と責任が生じ、気分は5月病ならぬ“4月病”です。今号では、今改定の研修会での学びを反すうしながら、感じたことを述べます。
病院の在宅重視でステーションの先行きは?
わが国では「時々入院、ほぼ在宅」を合言葉に地域包括ケアシステム構築の推進がはかられ、今改定もそれが大きな軸になっています。
医療機関が患者の退院後の生活に目を向けようとする姿勢が評価されました。これまで訪問看護ステーション・医療機関どちらからであっても、訪問看護に対する報酬は原則1回につき5550円(555点)で同額でした。しかし、今改定で医療機関からの訪問看護のみ5800円(580点)に報酬が上がりました。さらに、「退院後訪問指導料」が新設され、退院直後に入院医療機関の看護師等が患者宅を訪問した場合は同額を算定できます。退院後1カ月以内に限り、5回まで訪問が可能で、訪問看護ステーションの看護師等と同行した場合には「訪問看護同行加算」として200円(20点)加算されます。
さらに、退院支援業務に専従する職員を病棟に配置し、地域の他職種と早期から連携するなど、積極的な退院支援体制の整備も評価されるようになりました。この改定によって、退院後の患者にあまり関心がなかった病院の医師や看護師の意識が在宅に向けられるのを期待するところです。
一方で、2.5人で開業できる看護師の自立した働き方を提示し、これまでに看護の歴史の重要な一時代を築いてきた訪問看護ステーションへの影響はどうでしょうか。志と専門性が高く、地域住民のニーズに柔軟に対応してきた多数の小規模訪問看護ステーションの先行きがやや不安になりました。大規模病院の在宅重視への転換のあおりを受けて、大型スーパーや百貨店の台頭によって閉店していく個人商店と同じような運命をたどることがないようにと、祈りつつ応援していきたいと思います。