放射線被ばくについて看護師が知っておくべきことQ&A集

『カラーアトラス 放射線療法の有害反応 多職種チームで実践する治療と患者支援』の編者である佐々木良平先生が、放射線被ばくについて看護師が患者さんにお伝えすべきこと、知識として自身で知っておくべきこと等をQ&A形式でまとめてくださいました。

 

注)このQ&Aは東日本大震災にあたって特別に寄稿していただいたものです。書籍の掲載内容とは異なります。

 

 

「患者さんが通院を拒んでいます」


Q:事故原発の避難区域ではありませんが、通常よりも大気中の放射線濃度が高い地域にある病院です。外来で治療を受けていた患者さんが、被ばくするから外出するのはいやだと言って、通院を拒んでいます。外に出ても影響はないといくら言っても、納得しません。どう説得すればよいでしょうか。また、被ばくを防ぐために効果的な方法はありますか?


A:我々は日常生活において、宇宙や大地からの自然放射線や医療被ばくにより、年間平均約5mSv(ミリシーベルト)(=5,000マイクロシーベルト)の被ばくを受けています。

 

地域によっては10mSvのところもあります。つまり、人体に影響のない低い線量の被ばくは日常的なものです。むやみに心配する必要はありません。

 

そのように説明して、それでも通常より被ばく量が多くなることを懸念されるのであれば、少しでも被ばく量を抑えるために、皮膚を露出しない服装や帽子の着用、体内の被ばくを防ぐためにマスクの着用、そして必要以上に屋外にいる時間を減らすように心がけること、などをお伝えするとよいでしょう。

 

なお、外来で治療中の患者さんは、治療を中断することにより治療効果が落ちたり、病気が悪化したりすることも考えられますので、患者さんには治療中断による不利益についてよく説明してください。

 

 

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「胎児・乳幼児への影響を心配するお母さんが、不安がっています」


Q:事故原発の避難区域ではありませんが、通常よりも大気中の放射線濃度が高い地域にある病院です。乳幼児をもつお母さんや妊婦さんが、このままこの地域に残って生活しても大丈夫なのかと不安を訴えています。どう対応すればよいでしょうか?


A:胎児の放射線への影響は成人のそれとは異なります。つまり、成人で影響のない放射線であっても、胎児に危険がないとは言えません。したがって、妊婦や乳幼児はそれ以外の人よりも被ばくしないように気をつける必要があります。

 

被ばくを軽減する方法に関しては、上記回答を参考にしてください。放射線はその種類にもよりますが、高い密度の材質(コンクリートなど)でできた屋内にいることにより、外部からの被ばくの多くを防ぐことができます。

 

木造建築の屋内でも遮蔽効果はあります。また、放射性物質は時間が経てば経つほど、放射線を出す力は弱まっていきます。

 

 

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「入院患者さんが水道水を怖がっています」

 

Q:原発事故の影響で、一時、水道水の放射性ヨウ素の値が基準値を超え、飲水制限が出されました。その後、すぐに値が下がり、現在は飲水制限は出されていません。しかしそのときの影響で、現在でも、水道水を飲むと被ばくが怖いと言って、薬の飲み水にミネラルウォーターを要求したり、水道水で手を洗うことを拒む入院患者さんがいます。どう対応すればよいでしょうか?


A:水道水の放射性ヨウ素量の基準値は、WHO(世界保健機関)の基準で1Bq/Lです。日本の基準値はそれより高い300Bq(ベクレル)/Lで、これは1年間に自然放射線から受ける量に相当します。

 

まずは使用する水道水の放射性濃度を測定し、基準値以下であることを確認することが必要です。

 

そして基準値以下であれば、上記のことを説明し、手を洗うことはもちろん、飲用しても健康上に問題はないことを根気よく説明しましょう。

 

 

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「X線やCT検査を拒む患者さんが増えて困っています」

 

Q:原発事故の影響で、放射線を怖がり、X線やCT検査を拒む患者さんが増えています。どう対応すればよいでしょうか?


A:一般のX線検査やCT検査で受ける被ばくは医療被ばくといい、医療被ばく量の患者さんの制限はありません。

 

これは、使用する目的が正当で適切に使用するという前提であれば、放射線を使用して得られる便益が、検査で受ける被ばくのリスクを上回るからです。

 

また、X線検査やCT検査で受ける被ばくは体の一部であり、その量も生命に危険を及ぼすほどではありません。つまり、被ばくを恐れて検査をしないことによる病気のリスクのほうがはるかに危険だということを説明するとよいでしょう。

 

 

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「患者さんに放射線治療をやめたいと言われました」

 

Q:放射線治療を行っている患者さんが、原発事故の影響で放射線を怖がり、治療をやめたいと言ってきました。治療はまだ予定の半分の回数しか進んでいません。どう対応すればよいでしょうか?


A:原発事故により全身に被ばくした場合と、X線検査やCT検査、放射線治療で体の一部に局所的に被ばくした場合とでは、その影響は異なります。

 

人間は全身に8,000mSv(ミリシーベルト)被ばくすると死亡するとされています。しかし、例えば肺がんの標準的な放射線治療では、最低60Gy(グレイ)程度の放射線を6週間の期間に30回に分割して照射しますが、この線量は、X線の場合はGy=Svと考えると60,000mSvにもなります。

 

それでも限局した肺の局所への照射であるため、生命に危険を及ぼす線量とはなりません。

 

一方、途中で放射線治療を止めてしまうと、病気を根治するのに必要な線量が照射できていないため、病気が再増悪してその病気が原因で生活に支障が出たり、生命予後が悪くなることを再認識する必要があります。

 

 

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「ヨウ素剤の服用について教えてください」

 

Q:ヨウ素剤を服用すると放射線障害を防げると聞きました。どこで入手できますか。また、ヨードチンキなどの消毒薬やうがい薬を飲んだり、ワカメやコンブを食べると放射線障害を防げると聞きましたが、本当ですか?


A:ヨウ素は体内に入ると甲状腺に取り込まれます。そこで、事前にヨウ素を摂取し、甲状腺のヨウ素量を飽和させることによって、放射性ヨウ素が環境中にあっても、甲状腺に取り込まれないようにする対応方法があります。このような考えから、放射線防護剤(安定ヨウ素剤)の配布が緊急被ばく医療の対応マニュアルに記載されています。

 

ただし、40歳以上では摂取率が低い、効果があるのは被ばくの6時間前から6時間後まで、などその効果は絶対的なものではありません。ヨウ素製剤は、服用すべき必要のある方が医師の適切な管理の下に服用すべきものであり、自己で入手したり、服用することはお勧めできません。

 

ワカメや昆布には多くのヨードが含まれ、食物より摂取できますが、効果については不明であり、放射線障害を防げるというわけではありません。

また、市販のヨウ素を含んだ消毒薬・うがい薬は内服用ではありませんし、体に害を及ぼす可能性のあるヨウ素以外の物質も含まれていますので、ヨウ素製剤の代わりに飲むのはたいへん危険です。絶対にしないでください。

 

 

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「避難区域内の施設入所者を自施設で受け入れることになりました」

 

Q:原発事故の避難区域近辺にある高齢者施設の入所者を、自施設で受け入れる予定です。避難してきた人を受け入れる際に注意点はありますか。避難者に直接触れても危険はありませんか。また着ているものを、もとからの入所者の服といっしょに洗濯しても大丈夫ですか?


A:まず、受け入れ者およびその所有物が放射線汚染されていないか検査してください。周囲のものと比べて値が異常でなければ、問題はありません。洗濯もふつうに行って構いません。

 

万一、受け入れ者が内部被ばく等受けていた場合は、放射線障害が出てくることも考えられますので、注意が必要です。専門家に相談してください。

 

 

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「被災地に看護ボランティアとして行く予定です」

 

Q:看護ボランティアとして福島原発近隣の被災地の支援に入る予定ですが、放射線被ばくが気になります。放射線から自分の身を守るために気をつけることはありますか?


A:放射線防護の基本は、距離、時間、遮蔽です。放射性物質が検出された場合、できるだけその地点から離れることで、被ばくを低減できます。時間による被ばく量はそのまま加算されるので、同地点に1時間滞在した場合と1日滞在した場合では、24倍の被ばく量となります。基準値を超える被ばくの恐れがある場所での作業はなるべく素早く行い、必要以上に滞在しないように気をつけます。

 

遮蔽については、高い密度の材質(コンクリートなど)でできた屋内にいることにより、外部からの被ばくの多くを防ぐことができます。さらに、空気中に含まれている放射線物質からの被ばく量の低減のために、皮膚を露出しない服装と帽子の着用、内部被ばくを避けるためにマスクの着用などを心がけることが大切です。

 

放出された放射性物質は風によって運ばれるので、とにかく距離と時間の原則を考えて対応しましょう。実際には、風などの気象条件によって空中に拡散した放射線量は大きく異なります。個人用の放射線線量計を装着して、自分の被ばく量を把握することが重要です。

(文責:佐々木良平医師)