INR150号(春号)刊行しました。

「インターナショナル ナーシング レビュー 日本版」150号の特集は「越境する看護学:学際性の新しい価値」です。

 

本年度編集委員の川口孝泰先生(筑波大学大学院教授)がずっと関心を傾け続けておられる「学際性」をテーマに、何か面白い企画ができないだろうかと、ご相談を重ねました。

 

そんな中、筑波大学大学院システム情報工学研究科の山海嘉之教授が取り組まれているロボットスーツHALなどの開発プロジェクト「サイバニクス」主催の学際交流会「サイバニクス・サロン」が、昨年の秋に開催されました。

 

研究分担者の一人である川口先生がゲストに呼ばれ、環境看護学の視点からHALの医療・福祉活用についてプレゼンされたのですが、会場に集まった山海研究室の若いメンバーのみなさんから、次々と質問や意見が飛び出し、その「前のめりの好奇心」がすごく印象深かったのです。

 

HAL開発に取り組む工学者の視点は、可能なかぎりHAL単独の力でより多くのニーズに応えようと、その機能と性能の洗練にむけて一直線に突き進む印象です。いわば、どんな患者さんも助けることのできる万能ツールが理想なのです。

 

一方、看護の視点では、HALをあくまで患者をとりまくケア環境の一部としてとらえます。つまり、多様な患者のニーズをHALだけでなく、さまざまなモノやリソースと組み合わせることで、個別性の高い問題を柔軟に、そしてゆるやかに解決していこうという姿勢です。

 

この2つのアプローチのコントラストがとにかく興味深かったので、ぜひ誌上で再現できないかと考え、川口研究室と山海研究室の大学院生を集めた「越境座談会:看護×工学〜人々の幸福を追求する、それぞれのアプローチ」を企画しました。

 

座談会を貫くテーマは、分野や立場が違う両者が、ともに追求する「人々の幸福」です。そしてそこで焦点になったのは、病いや怪我などで身体機能に制限が生じてしまった人の動作をサポートするHALが、人間の「自立と自律」にどう関わるべきか、という課題です。

 

これについては、看護側が直感的に抱いた「技術の高度化が人間の自律を阻害するおそれはないのか」という危惧に関し、議論の中で看護と工学の間に意外な「反転」があることも見えてきました。

 

また、工学側から投げかけられる率直な質問の一つひとつが、言語化しにくい看護のさまざまな課題を改めて浮き彫りにし、看護側の参加者にとっては、社会の中での看護のありようを客観視する機会にもなったようです。

 

社会のさまざまな場面で、ますます言及されるようになってきた分野を超えた連携と協力、すなわち「越境」の重要性について、看護(と看護学)がそれをリアルに意識していくためのきっかけになればと思います。ぜひご一読ください。

 

 

●●座談会メンバーのみなさん●●

 

大島志織さん(筑波大学大学院システム情報工学研究科)

新宮正弘さん(筑波大学大学院システム情報工学研究科)

萩野谷浩美さん(筑波大学大学院人間総合科学研究科看護科学専攻)

 

本村美和さん(筑波大学大学院人間総合科学研究科看護科学専攻)