ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動へと促す設計のこと。ゲストスピーカー・医療職のタマゴたちとともに、看護・介護に役立つヒントを示します。
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「伝える」から「伝わる」へ
竹林 正樹
たけばやし まさき
青森大学 客員教授/行動経済学研究者
みおしん先生
ペインクリニック医/メディアアーティスト/
デジタルコンテンツマネジメント研究者
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医療職のタマゴたちが交代でナッジを学びます。
金田 侑大さん
城戸 初音さん
難波 美羅さん
竹林 今回も前回に引き続き、みおしんこと西村美緒先生にお越しいただきました。みおしん先生はペインクリニック医であり、線維筋痛症および慢性疲労症候群の患者でもある、医療従事者と患者のコミュニケーションの懸け橋となる稀有な先生です。みおしん先生も自身の痛みを伝えているのに、それがうまく伝わらず苦労された経験をお持ちです。そこで、今回は患者さんの視点で「『伝える』から『伝わる』へ」をテーマに考えていきます。
難波 私は以前、自分がお願いした意図に対し、相手がまったく別の受け止め方をしていたことがあり、そのときに「伝える」と「伝わる」が別物だと実感しました。少なくとも学会発表やプレゼンでは、相手に真意が伝わるように何度も練習を重ねて臨んでいます。
竹林 難波さんがそのように最善を尽くしている姿は素晴らしいです。しかし、例えば痛みを抱えている患者さんにとっては、できればそういった努力をしなくても、自分の痛みがうまく伝わるような仕組みがあるとよいですよね。
痛みのコミュニケーションツール
みおしん その問題解決のコミュニケーションツールとして開発したのが「ペインカード(PAiN CARD)」です。このカードの特徴は、「マクギル疼痛質問票」に基づいて痛みを分類し、患者さんの痛みの感じ方を整理しやすくしたことです。例えば、皮膚の痛みと内臓の痛みでは性質が異なりますし、同じ皮膚の痛みでも「軽く触れただけで痛い」「焼けるような痛み」など、感覚受容器や痛み刺激の種類によって感じ方が変わります。さらに、関連痛や、脳に痛みが記憶される痛覚変調性疼痛など、痛みの背景は複雑な要因が絡んでいます。これらを患者さんが診察室で的確に説明するのは難しいのです。こういうときにペインカードがあると、痛みの傾向を整理でき、患者さんの困り事を引き出したり、適切な対処法を考えたりしやすくなります。また、痛みをレベルづけし、イラストで伝わりやすくしたペインカードもあります。
→続きは本誌で(コミュニティケア2025年7月号)