トシコとヒロミの往復書簡 第22回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

地域包括ケアシステムのためにできること
文:川越博美


「株式会社井部看護管理研究所」の起業おめでとうございます。井部さんの数々のキャリアの中でも画期的で、看護師たちに夢を与えてくれる新しい挑戦・出発ですね。心からお祝い申し上げます。早くホームページを拝見したいです。

 

高校時代の恩師の、「道が切り開かれるのは、運命ではなく、自分では気づかなくても、それまで日々積み重ねてきたことが実を結ぶとき。だから毎日を誠実に真摯に、苦しみも糧にして楽しみながら歩みなさい」という言葉を、この年になって実感しています。井部さんをはじめ、大学や現場で活躍した看護師たちの起業のニュースをたびたび耳にするようになりました。これは起業するまでに日々積み重ねてきたことが、商品(サービス)として売れるほど価値があるということです。
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地域ケアの今(22)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

転居という一大イベント

文:上野まり

 

春は引っ越しの多い季節です。職場の異動や学校の入学・卒業などの時期だからでしょう。わが家も今春に大学を卒業した息子が自宅に戻り、慌ただしい引っ越しがありました。

 

息子の友人A君は東北で就職先を探し、引っ越したと聞きました。A君の一家は都内に暮らしており、1人だけ地方へ行くのが意外だったので、A君のお母さんに「どうして?」と聞いてみました。すると、「東北に祖父母がいるのよ。私たち夫婦も地元だからいずれは戻る予定だけど、息子は一足先におじいちゃんの所に行くっていうの」と話しました。そんな選択肢もあるのかと初めて知りましたが、最近になって“孫ターン”という言葉を聞き、もしやA君の選択はこのことだったのかと思いました。

子育て世代の地方への転居

“孫ターン”

孫ターンについて調べてみると、都会から孫が祖父母の住む地域に移住するという意味でした。子育て世代が地方に移住する際に、まったく縁のない所ではなく、祖父母の暮らす場所を選択するということのようです。農業に従事する孫もおり、農村回帰にもつながっています。数年前からメディアで取り上げられており、私が疎かったようです。
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トシコとヒロミの往復書簡 第21回

本連載では、聖路加国際大学名誉教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

 

起業

文:井部俊子

 

ご無沙汰しています。といっても、毎月1回はこの往復書簡であなたと往来していることになるのですが。今回は私の近況報告をしたいと思います。

 

私は、2017年3月末で聖路加国際大学を退職いたしました。大学には14年間在籍していました。最初の1年間はただの教授でした。2年目から3期(12年間)、学長をいたしました。学長在任中に65歳を迎えたので、正確にいうと、前半は学長・教授でしたが、後半は学長専任でした。最終年の1年間は特任教授でした。

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地域ケアの今(21)

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

介護現場ではやりの言葉遣い

文:鳥海房枝

 

医療現場で患者に「様」をつけて呼称することについての議論が始まったのは、「厚生白書」で医療がサービス業であると明言された1995年ごろからです。サービス業なのだから患者をお客様と捉え「様」をつけるべきという考え方がありました。そして2001年、「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」で「患者の呼称の際、原則として『さま』を付すことが望ましい」という内容が示され、多くの病院がそのようにしました。つまり、国が患者を様づけで呼ぶよう求め、全国に広がっていったのです。当時、この状況に私は強い違和感を覚え、東京都看護協会の地区支部役員会でそれを話題にしました。すると、ある公立病院の師長は「患者に丁寧な対応をするようになるので意味がある」と言いました。

 

その後、現場で働く医療関係者はもとより、当事者である患者にも「様」呼称について調査が行われました。その中で大変興味を引かれたのが、様づけで呼ばれることに対して患者の肯定的な回答率が低く、「違和感がある」「よそよそしい」「日本語としておかしい」といった否定的な意見が多くあったことです。そして現在は、あえて「様」から「さん」に戻した医療機関、直接患者に接するスタッフは「さん」、窓口対応は「様」と使い分けている医療機関、一律に「様」呼称している医療機関などに分かれています。

地域ケアの今⑳

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

コミュニティとは

文:上野まり

 

先日、ある研修会でワールド・カフェとやらに参加する機会がありました。数人の見知らぬ人たちと輪になって、1つのお題についてあれこれと思いを語り、時間になると次は別の人たちと輪になってまたそのお題について語り合い、最後は元いた輪に戻って再度、話し合うというユニークな座談会のようなものでした。このときのお題は「今後、地域の住民の暮らしを支えるために、どんなケアが求められているのか」。その中で、ある人が投げかけた1つの問いに考えさせられました。それは「そもそも自分にとってコミュニティとはなんだろう?」というものでした。
本誌のタイトルにもあり、地域看護や在宅看護、被災地支援などで頻繁に耳にする言葉ですが、あらためて考えたことがなかったため、その問いは私にとって妙に新鮮に響きました。そこで、今回は「コミュニティ」について考えてみようと思います。

多種多様なコミュニティ

辞書によるとコミュニティとは、「①人々が共同体意識を持って共同生活を営む一定の地域、およびその人々の集団。地域社会。共同体。②インターネット上で、共通の関心をもちメッセージのやりとりを行う人々の集まり。③ アメリカの社会学者マッキーバー(R. M. MacIver)が定式化した社会類型の一。血縁・地縁など自然的結合により共同生活を営む社会集団。→ アソシエーション」(大辞林第三版,三省堂.)とあります。 なるほど、さまざまな意味を包含している言葉なのだと認識し直しました。
人が社会の中で生きていく上で、どの共同体にも属さないということは、ほぼあり得ないと思います。人は生まれた直後から「家族」という最小単位の血縁集団に属しています。たとえ生後すぐに産みの母や父と別れたとしても、なんらかの生活共同体に属さなければ、生きていくことはできないでしょう。
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