行動変容をそっと促す ナッジを使ったアプローチ⑭

ナッジとは、人の心理特性に沿って望ましい行動をしたくなるように促す設計のこと。この連載では、3人の医療職をめざす学生がナッジを学ぶ姿を通して、看護・介護に役立つヒントを示します。

 

「記録しないこと」には理由がある?

 

竹林 正樹

たけばやし まさき

青森大学 客員教授/行動経済学研究者

 

[今月のゲストスピーカー]

後藤 励

ごとう れい

慶應義塾大学大学院

経営管理研究科・健康マネジメント研究科 教授/医師

 

 

竹林 前回は、後藤励先生(慶應義塾大学大学院)から「経済学は、限りある資源(人・物・金など)を最適配分し、満足度を最大化するための学問」という、経済学の目的を中心にお話しいただきました。
金田くん、後藤先生に質問したいことがあるんですよね?

 

金田 先日、新型コロナワクチンの当日キャンセル率を自治体に問い合わせたところ、大半が「把握していない」「記録していない」との回答でした。キャンセルした人はシステムから自動で抽出できるでしょうし、仮にそれができなくても、その日キャンセルした人数を数え、エクセルなどに入力すれば簡単に算出できると思うのですが……。
現場の人は、当日キャンセル率を把握しておけば、今後のキャンセル率が予測でき、廃棄量を削減できることはわかっていると思います。それなのになぜ、記録がされていないのでしょうか?

 

後藤 現場の人にとって、「記録しないこと」が「合理的な行動」である可能性があります。というのも、現状の「新型コロナワクチンの接種費用と廃棄費用を政府が負担する仕組み」は、担当者個人にとっても自治体にとっても、当日キャンセル率を自ら把握しようとする動機が生まれにくいものになっている可能性があるからです。

 

 

→続きは本誌で(コミュニティケア2023年8月号)