生きるということ

 

人生は苦しい。人生は虚しい。

そして人生は美しい

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前川喜平[元・文部科学省 事務次官]

 

1955年奈良県生まれ。1979年東京大学法学部卒業後、文部省(現・文部科学省)入省。大臣官房長、初等中等教育局長などを経て、2016年文部科学事務次官、2017年退官。現在、現代教育行政研究会代表。福島市と厚木市で自主夜間中学のボランティア講師も務める。著書に『面従腹背』『権力は腐敗する』(毎日新聞出版)、『コロナ期の学校と教育政策』(論創社)など。

 

学生時代、私は仏教青年会に入っていた。と言ってもメンバーは各学年に1人か2人しかいなかった。ダンマパダやスッタニパータといった原始仏典(もちろん原語ではなく現代日本語訳)の読書会をやったり、秋月龍珉師という師家の指導で座禅修行をしたりしていた。悟りを開く境地には到底達しなかったが、今日の私の人生観や世界観の大元は仏教を通じて形成されたといっていい。

 

原始仏典には二千数百年前にゴータマ・ブッダ(仏陀)が実際に語った言葉が残っているといわれる。仏陀はまず「人生は苦しみに満ちている」と説いた。人生の苦しみを総称して「四苦八苦」という。「四苦」とは「生老病死」、つまり生きる苦しみ、老いる苦しみ、病む苦しみ、死ぬ苦しみだ。さらに四つの苦しみを加えて「八苦」になる。愛するものと別れる苦しみ「愛別離苦」、憎むものと出会う苦しみ「怨憎会苦」、求めるものが得られない苦しみ「求不得苦」、人間の心と体に生じる苦しみ「五陰盛苦」だ。

 

続きは本誌で(コミュニティケア2023年6月号)