地域ケアの今⑲

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

 

高齢者への支援を考える

自立支援から看取りまで

文:鳥海房枝

 

介護現場では、高齢者ができないことを介護者が“肩代わりしてあげる”のではなく、自身が行えるように支援する視点が重要と言われています。これが自立支援に結びつけられて、オムツ使用からトイレ誘導へ、経管栄養から経口摂取へなど、熱心に取り組む高齢者ケア施設が増えています。そして、オムツ使用者ゼロや食事の全量摂取、1日の水分摂取量1000〜1500mLなどをその成果として発表しているのを目にします。

 

私はこれらを取り組みの成果として聞きながら、その一方で、ここに死をどのように肯定的に位置づけて支援しているのかを聞きたくなります。なぜなら高齢者の暮らしの中で、死は特別なものではなく、命を生き抜いた先にあるものだからです。その意味で生と死は連続しています。


全介助は高齢者の逃げ場を奪う?!

 

次に紹介する話は、ある施設で出会った家族から聞いたものです。「看取りの説明を受けたとき、ここで逝きたいと希望したら、職員の回ってくる回数が増えた。でも、まだ逝きそうもない。『看取りの時期』と言えば巡回の回数を増やしてくれるのであれば、もっと早くに言えばよかった」と言うのです。この施設では、オムツゼロを標榜し、たとえ傾眠傾向でもリフトを使用して便器に座らせ、職員2人で座位保持をサポートし排泄を促すということでした。また、脱水状態を予防するために1日の水分摂取目標量をプランに盛り込み取り組んでいるというのです。同様に食事も全量摂取へのこだわりがあります。

 

ところがあるとき、食事介助をしていたベテランの介護職は利用者に「ありがたいけど、もう結構」と言われたそうです。そして、その利用者は口を閉じ、目を瞑ってしまったのです。介護職は「利用者の目から涙がツーと流れ落ちたように見え、今まで何をしていたのだろうと、頭を殴られたような思いで、何も考えられなくなるほどの衝撃だった」と語ってくれました。また、「なんとか食べてもらうこと、全量摂取が介護職としての“能力”のように思っていた。これから、どのように考えればよいのかわからない」と話しました。