訪問看護ステーションや高齢者ケア施設の管理者が抱える課題を浮き彫りにし、どうしたら職員が辞めない組織づくりができるのかについて指南します。
やりがいを共有できる組織
横山 郁子
よこやま いくこ
株式会社パーソナル・ナース 代表取締役/訪問看護塾 塾長
神奈川県訪問看護ステーション協議会 顧問
本連載もいよいよ最終回です。そこで今回は、看護師という仕事を続けられる理由の1つである「看護のやりがい」を取り上げたいと思います。
訪問看護の仕事をしているとき、やりがいを感じるのはどのような場面でしょうか? 症状コントロールがうまくいったとき、看護師として困難な状況を乗り越えられたとき、他職種の人から感謝されたときなど、さまざまな瞬間があると思います。どんな仕事でもそうですが、やりがいを感じるとそれまで仕事に対するモチベーションが低下していても、一瞬にしてリフレッシュされます。そのとき、やりがいを共有できる仲間がそばにいれば、喜びも増します。
しかし、訪問看護師は基本的に1人で行動するので、自分が「よっしゃ!」と強くやりがいを感じた場面があっても、その場に同じ喜びを共有できる仲間がいないことが多いのです。1人で感じる喜びは、仲間と共有した喜びよりも比較的早く記憶から消えてしまいます。そのため、職員同士がやりがいを共有しながら、職員がこの職場で頑張っていきたいという気持ちになってくれるような仕組みを組織として構築すると、離職率低下につながると考えます。
本稿では、職員が感じたやりがいを仲間と共有する仕組みをつくるための3つのポイントをお伝えします。
やりがいを共有できる風土づくり
看護の業界は、真面目で、問題や課題に積極的に取り組もうとする意識が強い反面、すでにできていることに対しては「できて当然」と思い、プラスの評価をあまりしない雰囲気があります。そのため、やりがいを仲間と共有できる組織をつくるには、そのような風土自体を変える必要があります。
具体的にはまず、日ごろの会話で「この前、利用者さんがあなたのケアを褒めていたよ」「カンファレンスのとき、すごくよい気づきをしていたね」などと互いのよい部分を褒めることを習慣化するとよいでしょう。また、個人の成長や仕事の成果に応じて投票や表彰をしたり、業務で利用するSNSツール上でも、「いいね!」ボタンで互いの行動や発言について積極的に承認し合うことも効果的です。さらに、ステーション内でのケースカンファレンスのテーマに「看護のやりがい」を挙げたり、「やりがい」をテーマに研究し、学会で発表したりするのも職場全体でやりがいについて考えるよいきっかけになります。
これらを実践してみると、ほかの職員が「よかったな」と感じたことを知れたり、本人が忘れてしまった「やりがいを感じた瞬間」をまわりの職員からの言葉で思い出すことで、そのときのうれしかった気持ちや記憶を想起できることがあります。
また、よいケアをしたとき、利用者本人からその場で感謝されることはもちろん、とてもうれしいのですが、その後、他者を通じて褒められることはさらに真実味があって、やりがいにつながると考えます。また、ステーション内に留まらず、ほかのステーションや他職種から褒められたら、きちんと職員に伝えていくことも大切です。