SPECIAL INTERVIEW 『「暮らしの保健室」ガイドブック』が刊行 “社会的処方”として注目したい「よろず相談所」

秋山 正子 さん

(あきやま・まさこ)

 

暮らしの保健室 室長/認定NPO法人マギーズ東京 センター長

NPO法人白十字在宅ボランティアの会 理事長

 

秋田県出身。聖路加看護大学卒業後、臨床及び看護教育に従事。実姉の末期がんの看取りを経験したことで、1992年から東京都新宿区にて訪問看護を開始。2011年「暮らしの保健室」開設。2015年看護小規模多機能「ミモザの家」開設。2016年がん患者と家族のための相談支援の場「マギーズ東京」を開設

 

「やってみたいと思ったとき、それは“手の届くところ”にあります!」と秋山正子さんが声かけをしたコミュニティケア 2019年6月臨時増刊号『「暮らしの保健室」のはじめかた』は大きな反響を呼び、早々に品切れに。そこで大幅な追記と新たな保健室からの報告で60ページ増やし、『「暮らしの保健室」ガイドブック』として書籍化しました。秋山さんら編集企画委員「くらほチーム」の皆さんに、あらためて本書のおすすめポイントをうかがいました。

 

■さまざまな「暮らしの保健室」の活動を紹介

 

――訪問看護師としてナイチンゲール記章も受章された秋山さんが、「暮らしの保健室」活動に取り組まれていることはかなり知られていると思いますが、あらためて説明をしていただけますか?

 

はい、「暮らしの保健室」(以下:保健室)開設のきっかけは、訪問看護の実践の中で聞こえてきた声でした。医療や健康、介護などのちょっとした疑問や困りごとの相談ができないうちに深刻な事態に陥ってしまう人の多さに気づいたのです。

 

「地域の人たちが気軽に相談でき、適切な情報や必要な社会資源と早期につながることができるような場が必要」と考えていた矢先、都営の団地・戸山ハイツの空き店舗を安く貸してもいい、という話が舞い込みました。2010年11月のことです。

 

そして翌年7月に保健室はオープンしました。木をふんだんに使用し、自然光がたっぷり入る室内は、ホッとできる明るく家庭的な空間です。大きなセンターテーブル、お茶を入れられる小さなキッチンカウンター、少人数で話したいときにはスペースを区切ることができる相談室、畳敷きの小上がり風のスペースもあります。

 

現在、平日は、がん療養相談を含んだ「医療・介護・福祉相談」、毎月第4土曜日には半日「がん療養相談」を行っています。月~金の午後に看護師が常駐するほか、月に数回、薬剤師や管理栄養士も相談にのります。無料で予約も不要です。来室する方を、まず温かく迎え入れてくれるスタッフとしてボランティアさんもいます。

 

――臨時増刊号では、全国の保健室の取り組みを紹介させていただきましたが、反響はありましたか?

 

大きな反響がありましたね。臨時増刊号は、全国各地に飛んで行ったタンポポの種が芽を出したかのように地域の中でいきいきと動き出した保健室活動を世に紹介するきっかけとなりました。すでに似たような活動をしている方も、また、これから始めようと思った方も、大変多くの関心を寄せてくださり、なんと増刷になり、それも品切れに……。

 

せっかくの記事が、このまま埋もれるのはもったいないと、臨時増刊号の掲載記事を見直し、加筆修正。さらに新たな活動を取材。北海道から九州まで、熱い思いで地域のニーズに応えようと活動を開始した看護職の声を主に集めて書籍になりました。

 

コロナ禍で対面での活動の縮小や休止を余儀なくされたところもありましたが、その対応などについても多くの保健室から報告をいただいています。これからの活動の参考になると思います。

 

■5人のチームワークで内容がさらに充実

 

――では、保健室のタンポポの種が全国に広まるように秋山さんとともに頑張られた編集企画委員「くらほチーム」の皆さんも一言どうぞ。

 

「いろいろな保健室を訪問し、地域の人が“用事がなくてもつい立ち寄ってしまう”、そんな気持ちがよくわかるような気がしました。場の力もさることながら、その迎え入れられるような雰囲気をつくっているのは、やっぱり“人”で、その部分は全国共通だなと思います」(神保康子さん)

 

「取材で訪れた保健室は、どこもとてもチャーミングな場でしたが、開設・運営にはかなりの苦労をされていました。それでもへこたれず、柳に風という風情でうまく切り抜ける知恵と技とネットワークは感動ものでした。その点を本書の“解説・運営の7つの知恵袋”でお伝えしています」(村上紀美子さん)

 

「暮らし・働き方、家族のあり方、人と人のつながり方など、どの地域にもこれまでの歴史と積み重ねがあり、そうした根っこのある多様な生活を受けとめて支えている保健室の活動はとても大切なものを育んでいます。その特色のある活動が花開いていくことが楽しみでなりません」(森さとこさん)

 

「保健室は支援を受けられる場でもあり、活動できる場でもあります。コロナ禍で人々との交流が少なくなっている今こそ、地域での大切な資源です。全国に広がった保健室の活動はどれも素晴らしい! 皆さんもできることから活動を始め、地域の元気と笑顔を生み出してみませんか?」(米澤純子さん)

 

本書の前身である臨時増刊号を持つ企画・編集委員の皆さん
(左から神保・秋山・村上・米澤・森の各氏)

――最後に秋山さんからさらなるPRを!

 

地域共生社会をめざす今、私たちが取り組む保健室活動は、分け隔てのない相談窓口であってほしいし、社会的処方の場になると強く思います。

 

そんな活動を医療の面からバックアップしてくれるのが病院や診療所です。『看護』の読者である看護管理者の皆さんには、保健室の活動に目を留めてほしい。ぜひ、本書をご覧になっていただければうれしいですね。

 

 

新刊情報

「暮らしの保健室」ガイドブック

「相談/学び/安心/交流/連携/育成」の場

 

[総編集]秋山正子
●A4変型 184ページ
●定価3080円
(本体2800円+税10%)
ISBN 978-4-8180-2326-0
発行 日本看護協会出版会
(TEL:0436-23-3271)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[主な内容]

[GRAPH part1]「暮らしの保健室」北から南から
掲載された「暮らしの保健室」35施設を日本地図に示し、その

開設・運営主体別にわかりやすくグループ分けをしました。
[総論]「暮らしの保健室」がコミュニティで果たす役割
「暮らしの保健室」の意義、新宿・戸山での開設から今に至る

までの思いなどを秋山正子さんが語ります。
[解説]「暮らしの保健室」開設・運営の7つの知恵袋
「暮らしの保健室」を始めたい、続けたい人はまず何をする

か? 詳細な解説「7つの知恵袋」を読めば、きっと道が開けま

す。
[報告1~6]各地の保健室レポート
全国35の「暮らしの保健室」が、関東・中部・近畿などブロッ

ク別に登場。「保健室」開設のきっかけ、オープンまでの苦

労、運営しての喜びが存分に語られます。

 

看護2021年5月号より

 

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