『「爪のケア」に関する刑事事件ー経緯と支援の実際ー』内容紹介(その2)

日本看護協会の活動と見解:職能団体としての役割と支援の実際から

(日本看護協会常任理事 福井トシ子)

 

2007年 6月下旬、北九州市所在の病院で、看護師(以下、当該看護師)が高齢の入院患者の爪をはがす虐待があったと報道された。7月に当該看護師は逮捕され、「傷害罪」で起訴された。 2009年 3 月 30 日、福岡地方裁判所小倉支部は、当該看護師の行った爪切り等を「傷害罪」として、「懲役6月執行猶予 3年」の有罪判决を言い渡した。

 

これに対して、当該看護師が即日控訴したところ、2010年9 月 16 日、福岡高等裁判所は、一審には明らかな事実誤認があるとして「一審判決を破棄する。被告人は無罪」との判決を下した。

 

本件ヘの対応は、2名の元常任理事が担当しており、筆者は、控訴審の判決から関与しているが、ほんのわずかな関与にすぎない。日本看護協会(以下、本会)の活動と見解を執筆するに当たり、その多くは、本会事業開発部の医療安全担当者、および関係者の協力によることが多大であることをまず述ベておきたい。事件報道直後から実施した本会の支援の決定経過と実際について述ベ、看護行為の正当業務行為性をめぐる判決と課題について述ベる。

 

1 事件に対する日本看護協会の対応
1)報道を受けて^福岡県看護協会と行つた情報収集

 

2007 年 6 月 26 日、本件について初回報道があった。「看護師が爪をはがした」という報道から、「爪をはがす」ということは、看護職の倫理的な問題でもあることから、職能団体として取るべき対応の判断が必要と老え、本会事業開発部医療安全担当者は、福岡県看護協会と連携し、情報収集や事実確認等を早急、に行った。

 

福岡県看護協会からは、当該看護師は協会員であることや、当該看護師の背景や置かれている状況、事件が起きた施設の特徴、処置がどのように行われていたのかなどの情報提供があった。本件施設の、当時の看護部長が、実際に患者の爪を確認し、「当該看護師が行った行為は、ケアである」と明快に述ベたため、報道は事実と異なるという確信を持つことができた。

 

本会役員会で意見交換した結果、陸R道は国民ヘの影響が大きい。事実と異なるなら、当事者ヘの支援が必要である」という判断に基づいて、支援を行うことが決定された。事実確認を進めると同時に、どのような支援が可能であるか、その可能性を探ることとなった。

 

2)弁護士ヘの情報提供と情報共有


2007年 7 月 2 日に当該看護師が逮捕されたことから事実確認は急務となり、逮捕6日後には、①事実確認のための情報収集、②弁護活動のための情報提供の目的で、福岡県看護協会とともに北九州市の担当弁護士を訪問している。そして、弁護士にフットケアに関する情報提供として、本会が収集できた 19の文献を手渡している。この時から弁護士とメールや電話等で、情報交換を開始した。その内容は、弁護経過に関する情報収集と、弁護士ヘの医療・看護の情報提供、有識者の紹介などである。

 

3)当事者支援

 

この後、約 2 力月間にわたり、福岡県看護協会とともに本件関係者との面談を行った。逮捕後、接見禁止となった当該看護師ヘは、接見禁止が解けるのを待って県協会理事、本会理事と担当職員の 3名で面談に行った。係員の監視の下、また、短時間という制約の中ではあったが、「あなたの行為は、患者さんにとって必要な看護行為であったということを信じている。見守っている」という職能団体のメッセージを当該看護師に伝え、当該看護師はそのメッセージを受け止めてくれたと、確信できた。

 

※続きは本書で…

 

 

『「爪のケア」に関する刑事事件ー経緯と支援の実際ー』

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はじめに(日本看護協会常任理事  福井トシ子)

 

◯第1章:解説編

  • 日本看護協会の活動と見解:職能団体としての役割と支援の実際から(日本看護協会常任理事 福井トシ子)
  • 「『爪のケア』に関する刑事事件」の事件報道と日本看護協会の広報活動(日本看護協会 広報部)
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    ◯第2章:資料編

  • 資料2「『爪のケア』に関する刑事事件」の支援報告について
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    おわりに(前日本看護協会事業開発部部長/新潟県立看護大学教授 坪倉繁美)


     

    「爪のケア事件」とは何だったのか。